首なしアリスは■■のもの



 ……埃っぽい匂い、不気味な音をたてる隙間風。

 普段行くことのない屋上へと続く階段。

 ――あの日私は、いじめられているクラスメイトと初めて話した。

 中学二年生の春の終わり。

 委員会のせいで帰宅が遅くなり、夕方の薄暗い廊下を一人で歩いているときだった。

 心霊、オカルトが苦手な私は窓が軋む音にすら怯えていて、それなのにどこからか、すすり泣く声が聞こえてきた。

 背筋が凍る思いというのは、あのときのことを言うのだろう。

 そのまま走って逃げればよかったのに、私は何故か余計な正義感に駆られて、泣き声の正体を暴くべく音源へと近づいていったのだった。

 そうして辿り着いた、屋上へと続く階段。

 そこで、女子生徒が座っていた。

 泣いているのは、その子だった。

 顔を伏せていたので、誰かはわからなかったけど、上履きの色で同じ学年だということはわかった。


「あの……」


 声をかけると、その子はビクリと肩を震わせた。

 恐る恐る、といった感じでその子が顔を上げて、やっと誰なのかわかった。

 ……やってしまった。

 正直、まず思ってしまったのは、そんなこと。

 ちっぽけな正義感なんてその瞬間に消え失せて、関わらなければよかったという残酷な気持ちが顔を出す。


「……衣純ちゃん、だよね?」


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