首なしアリスは■■のもの
しかし今更無視する勇気はなくて、仕方なく彼女の名を呼んだ。
「あ……あの、私……っ」
衣純ちゃんは泣き止むどころか、しゃくり上げ始めてしまった。
「あ、お、落ち着いて……私、何もしないからさ」
……彼女はいじめられている。
他人から向けられるのが悪意だという先入観でもあるのだろう、ひどく怯えた様子を見せた。
「……いつもここで泣いてるの?」
彼女は何も言わず、頷くだけ。
……間がもたない。
でもだからといって、泣き続ける彼女を置いて立ち去る気にもなれなかった。
「私……」
衣純ちゃんは何か言おうとしたみたいだが、言葉がまとまらないのかそこまで言って黙ってしまった。
「いいよ、ゆっくりで」
普段はなるべく関わらないように見て見ぬふりをしているけれど、目の前で泣かれているとどうしても不憫に思えてしまう。
彼女の隣に腰を下ろして、口を開いてくれるのを待った。
ふと、彼女の首元に包帯が巻かれていることに気づく。
私の視線に気がついた衣純ちゃんは、手のひらを当ててそれを隠した。
……触れてほしくないのかな。
そのことについては、何も聞かなかった。
「……なんでいじめるのかな」