首なしアリスは■■のもの
彼女がぽつりと落とした言葉は、とても難しい質問だった。
答えならいくらでも並べられる。
優越感を得たいから。
暇つぶしになるから。
思いつく答えはどれも、どうしようもないことか彼女を傷つける言葉で、私はそれを口に出すことはできなかった。
「……気に、しないほうがいいよ」
絞り出した言葉は、まったく気持ちのこもっていない、間を繋ぐためのもので。
気の利いた言葉なんて思いつかなかった。
それが伝わってしまったのか、衣純ちゃんはまた黙り込む。
「いじめるほうが悪いんだから、ね」
「……でも、私、変、だし……変わらなきゃ……」
衣純ちゃんはそう言って俯いたけれど、それは、違うと思う。
いじめるほうが悪いし、おかしい。
変わるべきなのはいじめるほうだ。
いつも傍観しているだけで止める勇気もないくせに私は、弱い存在を前に何を驕ったのか、そんなことを考える。
気づけば、本心を言うべく口を開いていた。
「あなたは変じゃないし、間違ってないよ。無理に変わろうとしなくていいと思う。ねえ、だからもう泣かないで、衣純ちゃん」
――衣純ちゃんと会話を交わしたのは、それが最初で、最後だった。
彼女はそれから少し経って、海へ身を投げたんだ。
私は衣純ちゃんと話したことを誰にも言わなかった。
……それなのに、どうして。
どうして水無君が、私の言ったことを知っているのだろうか。