首なしアリスは■■のもの
「――またそんなこと言うんだね。夢から覚めて、ありす。君が見ているのは夢なんだ。悪い奴らがみせているその夢は、希望にあふれているかもしれない。けれどそれは、悪意にまみれた現実を覆い隠してしまうだけだ。二人で出よう」
もう何を言っても無駄だと思った。
彼の心にはきっと、私の言葉は届いていない。
気づくと私は、壁に追い込まれていた。
私の顔の横の壁に、水無君が手をついて逃げ場を奪う。
「私は夢なんてみてない……ずっとずっと、現実を見てる! 衣純ちゃんこそ、目を覚まして!」
どうせ逃げ場がないのなら、と精一杯強がって声を出した。
「ありす」
しかし私の虚勢は、重く冷たい声色に一瞬で剥がれ落ちてしまった。
「僕と一緒に来る?」
その問いに、小さく首を横に振った。
水無君は何も言わない。
「……私を……殺す?」
「――僕はありすを愛してる。殺すなんて、そんなことできない」
それを聞いて、少しだけ安心した。
いくら彼の頭がおかしくても、殺す気さえないのなら、逃げる機会を窺えばいい。
「と、思ってたんだけど」
私の少しだけ緩んだ気が、一気にぴんと張り詰めた。