首なしアリスは■■のもの



 ――僕が? この状況が? 処刑台の感触が?

 いくつか思いついたけれど、きっとそのすべてを指した台詞だろう。


「そんなこと言わないでくれよ、最後なのに」


 そう、これが本当の最後の処刑。

 この処刑台を作ったときに決めたのだ。


「これはハートの女王の処刑台――君のために作った処刑台なんだから」


 それを聞いた水無は、小さく笑った。


「そうですか……それは、最高ですね」


 それから一瞬の静寂の後で、水無の首が跳んだ。

 彼のたくさんの血液を体中に浴びて、僕は少しだけ満たされた気持ちになる。

 首なしアリスが女王のものなら、首なし女王は僕のものだ。

 彼の頭を拾い上げて、抱え、愛しいその顔に口づけを落とそうとして――ふと、気づく。

 ……ひどく、汚らわしいことに。

 ――恋?

 ――愛?

 ……どうやらそれらは僕の勘違いだったらしい。

 僕が彼をーー彼女を気にしたのは、単なる好奇心。

 つまりは興味本位だったのだろう。

 彼女を傷つけた低俗な奴らと違わぬ動機。

 そうでなければ、今こうして、彼の死体に嫌悪したりはしないはずだ。

 なかなか珍しい人間だった衣純も結局は、死んでみればただのグロテスクな不要品に成り果てた。

 こんなものを欲しがった僕はどうかしていた。

 もう考えることもできないくせに無駄に脳みその詰まったゴミを転がして、さっさと帰ることに決めた。

 ――何ともくだらない時を過ごした。

 望めば何でも手に入る僕にとっても、時間だけは有限だというのに。

 いつか僕の心を満たす誰かには出会えるだろうか。

 僕が願い続けるその瞬間に近づくためのシナリオを、考えなくてはいけない。

 ……さあ、次は何をしよう?

 これから訪れるであろう愉快な日々を思って、自然と笑みが零れ落ちた。







【おわり】




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