首なしアリスは■■のもの
『彼女の終わり
――あれは中学二年生の夏の終わり、私のストーカー事件が収束して間もない頃。
一人の同級生が自殺した。
確かあの子の名前は、衣純ちゃんといっただろうか。
彼女は、端的に言えば、いじめられていた。
衣純ちゃんについて考えた時にパッと思いつくのは、暴力を振るわれていたなぁ、とか、いつも探し物をしていたなぁ、とか――とにかく、かわいそうなことばかりだ。
衣純ちゃんがいじめられていた理由の一つには、容姿が関係していたと思う。
彼女はいつもマスクをしていて、体中に包帯を巻いていた。
それでもって背が高く、ひどく痩せていた。
いじめをしていた連中は、彼女のことを不気味、気持ち悪いと言い、挙句の果てに『バケモノ』呼ばわりしていた。
衣純ちゃんはアリスモチーフのデザインが好きだったのをよく覚えている。
鞄につけたマスコットも、ペンケースやノートも、古くてボロボロだったけれど小物にはすべてアリスの世界が描かれていた。
バケモノのくせにかわいいものが好きなのか、そんなのおかしい……衣純ちゃんの周りでは、そんな台詞を頻繁に聞いた。
……私は衣純ちゃんのことをそんな風に思ったことはない。
しかし、今思えば奇異の目で見ていたことは確かだ。
アリス部のみんなもきっと、そうだったのだろう。
彼女に危害は加えていない。
けれど、彼女のことを知っている時点で誰もが傍観者だ。
行動に出ないで、ただ見ているだけ。
――衣純ちゃんが死んだのは、ひどい雨の日だったらしい。