首なしアリスは■■のもの



 悲しむだろうか、あきれるだろうか――軽蔑(けいべつ)されるかもしれない。

 不安や憂鬱(ゆううつ)、こんな悪夢も一緒に吐き出してしまえればと(こぼ)したため息は、ノックの音でかき消された。


「ありす」


 ノックの後に聞こえたのは、心の声だった。


「あの……さっきはしつこく聞いてごめんね。もう夜の食堂の時間、終わっちゃったから……持ってこられるものだけ持ってきたよ」


 ……謝るのは心じゃない、私のほうだ。

 こんな私に、彼女は優しさをくれる。

 それを踏みにじりたくはない。

 やっぱり言うべきだと決心した。


「心、さっきは逃げてごめん!」


 ドアを開けて、頭を下げる。


「や、やめてよ! ……私があんな時に聞いたのが悪いんだし。それよりはい、食べられそうなら食べてね」


 心はペーパーナプキンに包んだパンを二つ抱えていて、片方を手渡してくれた。


「ありがとう……」

「あとこれ、千結のぶんなんだけど……部屋にいないみたいで。ありす、心当たりない?」

「え……わかんないけど――」


 ……きっと千結は、私よりもずっと深い傷を負っている。

 食堂の時間が終わっているなら、もう二十時は過ぎているはずで、千結が部屋にいないのは不安に思う。


「そっか……探すなら外かな?」


 そんな心の言葉の終わりに重なって、微かなメロディーが聞こえた。

 ……クラシックだろうか。

 どこか悲しげなこのメロディーに、聞き覚えはない。


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