首なしアリスは■■のもの
私が訊くと千結は、ほんの僅かな仕草で頷いた。
「千結、これ……少しは食べたほうがいいよ?」
心がパンを差し出すと、千結は小さく「ありがとう」と言って受け取った。
――沈黙。
……何を話せばいいか、何になら触れていいのかわからない。
「さっきの、何の曲?」
何か話さないと、という焦りから思わず口に出したのは、そんな当たり障りのない質問だった。
「あれは……名前はないの。オリジナルの曲」
千結は俯いてしまった。
何かいけなかっただろうか。
「千結、作曲できるんだ? すごいなぁ」
心が場の空気を良くしようとそんなフォローをいれてくれたが、逆効果だったみたいだった。
千結の瞳に溜まった涙がそれを証明している。
「私じゃなくて……祐奈が……」
そこまで言うと、千結は手のひらで顔を覆って泣き出してしまった。
……まさか祐奈の作った曲だなんて、思わなかった。
知らなかったとはいえ、聞くべきではないことを聞いてしまったと、申し訳なく思う。
心もすっかり眉を下げ、口を結んで千結の背中を撫でている。
「……ゆ、祐奈ぁ……ど、して……私、信じてあげられなかった……」
「千結……」