首なしアリスは■■のもの
「あ、謝らないでよ……」
咲真の顔は見えない。
ただ、少しだけ荒い息遣いと手のひらから伝わる体温が、彼がいつも通りではないことを証明していた。
「――嫌だった?」
「……嫌じゃない」
そう言うと咲真は、「よかった」とため息混じりに言った。
「ごめんね、初めてがこんなときで」
髪を撫でられる。
私は首を横に振った。
嫌ではない、嫌ではないけれど――今の体勢が恥ずかしすぎて、いつも通りを装って話せる自信がなかった。
「……震えてるよ、ありす」
優しい声色で呟いて、彼は私の隣に寝なおした。
……少しだけ、安心した。
あの体勢がいつまでも続けば、私の心臓は爆発していたかもしれない。
「あ、あのねっ! 怖かったわけじゃないよ、でも、緊張しちゃって……」
咲真は何も言わず、ただ、私の頭を撫でる。
ふいに引き寄せられ、咲真の胸元に顔を埋めるかたちになった。
「俺も。……でも、明日無事かわかんないって考えたら、したいなって思っちゃって」
私は、咲真を抱きしめた。
うれしいとか、愛しいとか、色々な気持ちが混ざった結果の行動だった。
本当は、大変な状況なのにこうやって幸せを感じている罪悪感とか、そんな複雑な思いもあるけれど、今夜だけは少しくらい温かい気持ちでいたいと思った。
「咲真……ここから、一緒に出ようね」
「……うん。俺は絶対に逃げ道を見つけるよ」
もう一度、今度はどちらからともなく短いキスをした。
手を繋いで眠りにつく。
ここに来てから初めて、安心して夢の中へと誘われることができた。