ズタズタに傷ついた私に滾る溺愛をくれたのは、美しい裸身の死神でした
チャンスは一度きり、瀬戸際での挑戦だった。

翼は結界を越え、カラスの体を得た。死神が結界を越えてこの世にあらわれる時には、カラスの体を借りるのだ。

両翼をふた振りして風をはらませると、空を滑るようにして国道を走る赤い車を目指した。

滑空し、車に近づき、カラスの姿を消して煙のように空気に溶け入ると、車内に入り込んだ。
人間に、死神の姿は見えない。

運転席の男はハンドルを握り、助手席に座った女性と楽しげに話していた。

「誕生日にパパに会えたら、あの子本当に喜ぶと思う」

「シンガポール工場もやっと落ち着いて来たからな。長く留守にしてごめんな」
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