ズタズタに傷ついた私に滾る溺愛をくれたのは、美しい裸身の死神でした
翼に噛みつき、食いちぎるような、猛烈な執念に、翼は魂の一部をもぎ取られるような痛みを覚えた。

火の塊に包まれた赤い車の上で、結界の入り口が閉じはじめる。

魂をむしり取り、無理やり車体から出した。

二人が今五感で得ている感覚と、薄れゆく意識の中を駆け巡る想念が、翼の内部に押し寄せるように流れ込んでくる。焼けただれ、引きちぎられるような痛みと、気が狂わんばかりの生への執念が翼を襲った。翼は声にならない喚き声を発した。

炭と化した身体から離れた魂は、二筋の光になって稲妻のように鋭い速さで宙を彷徨った。

翼は最後の力を込めて、ぽっかりと闇をのぞかせる結界の裂け目に向かって二人の魂を押し出した。

二人の魂が、この世から消えた。
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