ズタズタに傷ついた私に滾る溺愛をくれたのは、美しい裸身の死神でした
ガソリンと煙のにおいが立ち込め、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。


翼は再びカラスの体を得た。空を飛び、戻らなければならないのに、体が浮き上がらない。ふと見やると、右の翼がもぎ取られ、翼の体半分を地面に引きずるように傾いてしまっていた。

羽を失ってしまったものの、翼は死神の使命をなんとか達成することができたので、正式に死神としての称号を与えられた。もう彷徨うだけの魂ではなくなったのだ。

それでも、あの苛烈で壮絶な肉体の苦しみに耐えながら、それでも体を離れなかった二人の生への執念に、翼は圧倒され、うちのめされ、しばらくのあいだ立ち直ることができなかった。


その男と女の顔は、今もよく覚えていた。
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