ズタズタに傷ついた私に滾る溺愛をくれたのは、美しい裸身の死神でした
翼は死神を待合室から押し出し、そのまま駆け出した。駅のホームを走り抜けながら、人々の背後に立つ黒いマント姿を次々と跳ねのけた。

「みんな、電車に乗るな」
叫びながら走る翼を、奇異の視線で人々が振り返った。それぞれの背後に立っている死神たちの姿は、人々には見えていないからだ。

翼はホームに立つ駅員の襟首をつかんで詰め寄った。

「これから来る電車は、この先の地下鉄に繋がるトンネルで崩落事故に遭う。乗った人たちは助からない。だから電車をこの先に行かせるな、停めろ。電車の乗客を皆降ろせ」

翼は駅員に訴えた。異変に気付いた駅員たちが駆け寄り、翼を羽交い絞めにした。

「電車を停めろ。この先に行かせるな」

翼は叫んだ。
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