ズタズタに傷ついた私に滾る溺愛をくれたのは、美しい裸身の死神でした
凛はたびたび、こうしてあらぬ方向をじっと見つめることがあった。まるでその先に、誰かがいるかのように、だ。

翼は時折、自分の姿が見えているのかと思い、凛の名前を呼んでみたことが何度もあった。
けれども凛が気づくはずはない。
翼はあれからずっと、魂を入れる器を与えられることはなかったのだから。

死ぬはずの人間を助けた罰として、翼は人間にされ、人間として死んでからも、死神の役職ははく奪されたままだった。

人間の死に立ち会うことができないということは、この人間の世界で実態を持って活動することはできないということだった。

つまり翼は謹慎期間の五十年間、魂の受け皿を与えられず、死神の世界と人間の世界をひたすら漂いつづけていたのだ。
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