ズタズタに傷ついた私に滾る溺愛をくれたのは、美しい裸身の死神でした
侵入者
凛は男から離れ、後ずさってリビングに戻った。
一糸まとわぬ姿でベランダにひざまずいていた男は、すっと立ち上がった。
身長は百八十センチ以上あるのか、凛が見上げるほどに大きい。肩や胸元の美しい筋肉の隆起と割れたお腹はまるで彫刻のようだ。視線を下ろせば、そこにはまさに凛が理想として思い描いていた形をしたものが、堂々と垂れ下がっている。
凛は咄嗟に顔を赤らめて両目に手をあてがった。
「ここに来たばかりで何を着ろというんだ」
男は怒ったように言った。
凛は指の間に隙間を作って男を覗き見ながら質問に質問で返した。
「来たって・・あなたは一体、どこからいらしたんですか」
「俺は死の領域から結界を越えて来た。死神だ」
男は淡々とした口調で答えた。
「死の領域、結界、死神」
凛は男の口からこぼれ出た耳慣れない言葉たちを機械的に繰り返し、しばらく立ち尽くした。
男の言っていることの意味が、全く理解できない。
恐怖心を隠して凛は素早くローテーブルのスマホを手に取ると後ずさって玄関に向かい、シューズクロークに掛けたコートと鍵を持って外廊下に出た。施錠し、警察に通報した。管理人室にも連絡を入れる。
しばらくするとマンションの管理会社から派遣されている管理人と、制服姿の警察官が走ってやってきた。
「通報した涼風凛さんですね」
「不審な人が中に」
凛は玄関ドアを指さした。
警官に促されてドアの施錠を外すと、中にいた男が玄関に近づいてきた。
「この男性のことですか?裸じゃないですかあなた」
警官が凛に確認した後、男の方を見て言った。
だから通報したんじゃないですか、と胸の内で反問していると、男は裸のままドアの間から半身を出し、警官と管理人を交互に睨んだ。
「何の騒ぎだ」
「いや、騒ぎのもとはあなたですよ。まず服はどうしたんですか」
「そんなものあるわけがないだろう。こっちだってこんな格好にさせられて、困っているんだ」
「誰にこんな格好をさせられたと?」
警官が訊くと男は答えた。
「そこの女にだ。この女に俺は未来をめちゃくちゃにされたんだ」
警官と管理人は、男と凛の顔を交互に見た。
警官は半ば面白がっている様子で、口元には含み笑いすら見て取れた。
凛は事の発端を順序だてて警官に説明すると、聞いていた警官は凛の話を引き継ぐように口を開いた。
「今一度確認しますね。
あなたがベランダから落下しそうなところを、この男性が助けてくれた。けれども、その時部屋には鍵がかかっていて、外から入れる状況ではなかった。ということですね。
つまり、前から男性は部屋にいた。なにしろ、裸ですからね、事実、この人は、あなたにこんな格好にされたと言っている」
警官は確認するように、男と凛を交互に指さしたあと、さらにつづけた。
「お二人は一緒にいて、酒を飲んで前後が分からなくなった、といったところなんじゃないですか」
「でも私、あの人のこと何も知らないんです」
「名前も知らない行きずりの相手と、なんてどこにでもある話ですよ」
警官は、ドアの後ろに立っている男の裸身と、コートの下から素足をのぞかせている凛をいやらしい目で見た。
「あなたに被害があるわけじゃない。むしろ助けてもらっているんだから、こちらでは何もできることはありませんよ」
そう言い残すと、じゃ、と片手を上げて警官は去っていった。
「彼の素性は、酔いがさめてから確認されたらいいんじゃないですかね」
管理人も苦笑してその場を後にした。
警官も管理人も帰ってしまい、凛は途方に暮れた。
そこに、シャカシャカとウインドブレーカーを鳴らしながら大股で男が歩いてくる。デリバリーの配達員だった。
リュック型の配達用バッグを背負った男は、表札を一つずつ確認しながら近づいて来た。
「涼風凛さんですか、ご注文のお料理のおとどけです」
一糸まとわぬ姿でベランダにひざまずいていた男は、すっと立ち上がった。
身長は百八十センチ以上あるのか、凛が見上げるほどに大きい。肩や胸元の美しい筋肉の隆起と割れたお腹はまるで彫刻のようだ。視線を下ろせば、そこにはまさに凛が理想として思い描いていた形をしたものが、堂々と垂れ下がっている。
凛は咄嗟に顔を赤らめて両目に手をあてがった。
「ここに来たばかりで何を着ろというんだ」
男は怒ったように言った。
凛は指の間に隙間を作って男を覗き見ながら質問に質問で返した。
「来たって・・あなたは一体、どこからいらしたんですか」
「俺は死の領域から結界を越えて来た。死神だ」
男は淡々とした口調で答えた。
「死の領域、結界、死神」
凛は男の口からこぼれ出た耳慣れない言葉たちを機械的に繰り返し、しばらく立ち尽くした。
男の言っていることの意味が、全く理解できない。
恐怖心を隠して凛は素早くローテーブルのスマホを手に取ると後ずさって玄関に向かい、シューズクロークに掛けたコートと鍵を持って外廊下に出た。施錠し、警察に通報した。管理人室にも連絡を入れる。
しばらくするとマンションの管理会社から派遣されている管理人と、制服姿の警察官が走ってやってきた。
「通報した涼風凛さんですね」
「不審な人が中に」
凛は玄関ドアを指さした。
警官に促されてドアの施錠を外すと、中にいた男が玄関に近づいてきた。
「この男性のことですか?裸じゃないですかあなた」
警官が凛に確認した後、男の方を見て言った。
だから通報したんじゃないですか、と胸の内で反問していると、男は裸のままドアの間から半身を出し、警官と管理人を交互に睨んだ。
「何の騒ぎだ」
「いや、騒ぎのもとはあなたですよ。まず服はどうしたんですか」
「そんなものあるわけがないだろう。こっちだってこんな格好にさせられて、困っているんだ」
「誰にこんな格好をさせられたと?」
警官が訊くと男は答えた。
「そこの女にだ。この女に俺は未来をめちゃくちゃにされたんだ」
警官と管理人は、男と凛の顔を交互に見た。
警官は半ば面白がっている様子で、口元には含み笑いすら見て取れた。
凛は事の発端を順序だてて警官に説明すると、聞いていた警官は凛の話を引き継ぐように口を開いた。
「今一度確認しますね。
あなたがベランダから落下しそうなところを、この男性が助けてくれた。けれども、その時部屋には鍵がかかっていて、外から入れる状況ではなかった。ということですね。
つまり、前から男性は部屋にいた。なにしろ、裸ですからね、事実、この人は、あなたにこんな格好にされたと言っている」
警官は確認するように、男と凛を交互に指さしたあと、さらにつづけた。
「お二人は一緒にいて、酒を飲んで前後が分からなくなった、といったところなんじゃないですか」
「でも私、あの人のこと何も知らないんです」
「名前も知らない行きずりの相手と、なんてどこにでもある話ですよ」
警官は、ドアの後ろに立っている男の裸身と、コートの下から素足をのぞかせている凛をいやらしい目で見た。
「あなたに被害があるわけじゃない。むしろ助けてもらっているんだから、こちらでは何もできることはありませんよ」
そう言い残すと、じゃ、と片手を上げて警官は去っていった。
「彼の素性は、酔いがさめてから確認されたらいいんじゃないですかね」
管理人も苦笑してその場を後にした。
警官も管理人も帰ってしまい、凛は途方に暮れた。
そこに、シャカシャカとウインドブレーカーを鳴らしながら大股で男が歩いてくる。デリバリーの配達員だった。
リュック型の配達用バッグを背負った男は、表札を一つずつ確認しながら近づいて来た。
「涼風凛さんですか、ご注文のお料理のおとどけです」