ズタズタに傷ついた私に滾る溺愛をくれたのは、美しい裸身の死神でした
拓斗は凛の異様な驚きぶりに、ちいさめの、どちらかというと可憐な少女を思わせるような愛くるしい瞳を見開いた。

「ごめん、びっくりさせちゃって・・・そんなに驚くなんて、ちょっとショックかも」

拓斗は足音をたてずにゆっくりと凛に近づき、昨日は、ごめん、と押し殺すような声で呟いた。

昨夜であればさすがの凛も激高しただろうか。身近に置かれたものをなりふり構わず手に取って投げつけただろうか。けれども今の凛にはすでに、拓斗に向けるエネルギーは残っていなかった。
むしろこれ以上借金が嵩まずにすむ、といった安堵さえあった。

凛は拓斗の方を振り返りもせず、ただ首を横に振った。

振り返らない凛の背中を見つめていた拓斗が、あきらめたように出て行く気配がした。

結局「ギャンブルをやめて欲しい」と本音をぶつけることはできずに終わった。この期に及んでも、お金を返して、とすらいえない自分に、苦笑さえ起きなかった。お互いに本当の気持ちをむき出しにできないまま、関係は終わりを迎えることになった。
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