ズタズタに傷ついた私に滾る溺愛をくれたのは、美しい裸身の死神でした

小さな新婚旅行

新婚旅行に行こう、と言い出したのは翼だというのに、宿に着いても翼は何となく元気がなかった。いつも食欲旺盛な翼が、宝石のようなお刺身の盛り合わせを目の前にしても、箸がほとんど動かなかった。

翼が秘密で確保してくれていた、温泉地にある鳥居リゾート系列のホテルで、凛は部屋についている露天風呂に入って月を見上げた。

ゆっくり温まった後、髪を拭きながら部屋に戻ると、翼の姿がなかった。どこへ行ったのだろうか。夕ご飯をあまり食べなかったから売店でおつまみか何かを探しに行ったのだろうか。



凛は窓際の椅子に体を沈めてもう一度月を見上げた。カラスが横切る。

まさか自分が元死神と結婚することになるなんて、つい数日前までは思ってもみなかったことだった。難しいことはわからないが、社会的な肩書もあり、収入も資産もある。生活に困ることはなさそうだけれど、元死神だったことが、あとあとになって思いもよらない問題を引き起こしそうな気もする。
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