夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す
 食事を終え、シャワーを浴びて寝る支度を整えた二人。

 ここはギルバートが一人で暮らしている家なので、当然寝室は一部屋でベッドも一つしかない。

 それに気付いたエリスは自分の寝床をどうしようか考えていた。

「エリス、ベッドはお前が使え。まあ、城のベッドと違ってあまり寝心地は良くないだろうが、そこは我慢してくれ」
「え……ですが……」

 しかしギルバートから自身のベッドを使うよう言われたエリスは思う、自分がこのベッドを使うと、ギルバートはどこで寝るのだろうかと。

 辺りを見回す限り、ベッドの代わりになる家具は無い。椅子を二脚合わせたとしても、ギルバートには小さくて寝られないだろう。

 かくなる上はテーブルの上か、床くらいのものだ。

「あの、私がベッドを使ってしまったらギルバートさんの寝る場所がありませんよ?」
「俺は床で寝るから問題無い」
「ええ!? 駄目ですよ、床で寝るなんて」
「姫様には経験が無いだろうが、床で寝るくらい普通の事だ。仕事中は野宿だってあるくらいだからな」
「……それなら私が床で寝ます! だってここはギルバートさんの家ですもの、置いて貰っている私の方がベッドを使うなんておかしいです……」

 そして、ギルバートの話を聞いたエリスは、それならば自分の方が床で寝ると言い出した。

「気持ちは嬉しいが、男が女を床で寝かせて自分だけベッドを使う訳にはいかない。遠慮はしなくていい、お前はベッドを使ってくれ」
「いやです、私は使えません。それなら、外で寝ます!」

 ギルバートは何とかしてエリスにベッドを使わせたいと思っているのだけど、エリスはそれを頑なに拒否し続ける。

 いつまでも続く押し問答に困り果てたギルバートは悩み悩んだ末、

「――分かった、ならば二人でベッドを使う、それでどうだ? まあ、あのベッドは二人用では無いが、二人で寝れない事も無い広さだ。二人で使えばどちらかが床で寝る事も無い」

 二人一緒にベッドを使う提案をエリスにした。

 幸いギルバートが使っているベッドはセミダブルより少し大きめのサイズで二人一緒に寝れない広さでは無い。

 勿論、ギルバートに下心など一切無い。

 いつまでも折れないエリスに配慮して、二人で使う提案をしたまでだ。

 それは恐らくエリスも分かっているのだろう。

 だがしかし、エリスは異性とベッドで寝るという経験が一度だけあり、それがシューベルトとの初夜で、あれは彼女が生きてきた中で、一番苦痛な時間だった。

 シューベルトは経験が無く怖がり、嫌がるエリスを押さえつけ、無理矢理犯す形で自身の欲を放ったのだ。

 エリスにとってあの夜の行為はトラウマにしかならず、異性と同じベッドで眠る状況になればそれを思い出してしまいそうで怖かったのだ。
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