夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す
 何でもそつなくこなしてしまうギルバートは何者なのだろう。

 髪を切って欲しいと願い出たエリスは、自身の髪が切られていく中、ボーっとそんな事を考えていた。

 あれから早速髪を切るのと染める為の準備を始めたギルバート。

 外に椅子を置いて、エリスの身体に布を羽織らせてその工程は行われていた。

 カラーリング剤も自らで調合するようで、様々な薬品などの入った小瓶を用意したギルバートは髪を切る手付きも上手く、躊躇いも一切無くエリスの髪にハサミを入れていく。

 はらりはらりと落ちていく髪をジッと見つめるエリスは、今自分がどんな髪型になっているのか密かに気になっていた。

 髪を切り終わると、そのまま染める工程に移る。

 天気も良く、気温もそれ程高くない今日の気温はただ座っているだけのエリスにとって心地良いもので、時折吹いてくる微風が気持ち良くて、彼女はいつの間にか眠りの世界へ誘われていた。

「――ス」
「……んん……」
「エ――……ス」
「ん……、」
「エリス、起きろ、エリス」
「――ッ!」

 うたた寝をしていたエリスは自分を呼ぶ声に気付き、ようやく目を覚ます。

「す、すみません! 私寝て……」
「構わねぇよ。ただ座ってるだけじゃ眠くもなるだろ。それよりも、終わったぞ。ほら、鏡だ」
「あ、はい!」

 寝てしまった事を謝罪するエリスに気にしていない事を告げたギルバートは少し大きめの鏡を手渡した。

 鏡を受け取ったエリスは出来上がった髪型を見てみると、

「うわぁ、凄い! 別人みたい!」

 長くウェーブがかった栗色の髪は、肩よりも少し上の方まで短くなったウェーブがかったボブヘアスタイルになり、色も暗めの茶色に染まっていた。

「少し短くし過ぎたか?」
「いえ、大丈夫です。この方が私だって分からなさそうですし」
「そうか。お前は長い髪も似合っていたが、短いのも似合うな」
「そう、でしょうか?」
「ああ」
「ありがとうございます」

 "似合う"と言われたエリスは素直に嬉しく、自然と笑みが溢れた。

「ギルバートさんは、やっぱり髪はご自分で切っていらっしゃるんですか?」
「ああ。伸びてきたと思ったらすぐに切っているから、形は変わらない。色も、過去に染めてからずっと同じ色にしている」
「ギルバートさんも染めていらっしゃるんですね。とても自然なお色だから、地毛なのかと」

 ギルバートは傷を隠すつもりが無いのかスッキリとした短髪で、色は光沢のある漆黒。

 そんな彼も元は別の髪色だった事を知ったエリスは元の髪色が知りたいと思ってしまう。

 けれど、あまり髪の話題に触れられたくないのか、特に興味も無いのかギルバートは黙々と片付けに勤しんでいた。

 結局髪色を聞けずじまいだったエリスだけど、いつか聞く機会があれば聞いてみようと気持ちを切り替えると、これから街へ出向くのでギルバートよりも先に出掛ける準備を済ませてしまう事にした。
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