夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す
「よし、それでは出発するぞ」
「はい」

 準備を終え、リュダに跨った二人は偵察の為にセネル方面へ向かって出発した。

 ひとまず市場へ行けば情報は得られると、初めに市場へ立ち寄る事にした二人。

 リュダを繋いで情報収集に向かうさなか、エリスの故郷でもあるルビナ国からやって来た行商人と出逢う。

「お客さん、知ってるかい? ルビナ国の王女でセネルの王子の元へ嫁いだエリス様が、亡くなったという話」

 ギルバートが情報を得る為に買い物をしていると、商人がエリスが亡くなったという話を口にした。

「亡くなった? 何故だ?」
「何でも病状が悪化したらしくてねぇ、昨日亡くなったと今朝早くに号外が配られていたよ。ほら」

 詳しく話を聞いていくと、エリスが逃げ出した昨日、彼女が亡くなったという話を作り上げ、今朝各地で号外が配られていたらしく、商人は貰ってきた紙をギルバートたちに差し出した。

 そこには、【流行り病に侵され長らく闘病生活を送っていたエリス王妃の病状が悪化して亡くなった】と記載されていた。

 分かっていた事ではあるけれど、いざ自分が亡くなった事にされたエリスの心中は複雑だった。

 行商人と別れ、再びリュダに乗った二人は市場から離れていく。

 その道中、

「エリス、大丈夫か?」

 元より口数の少なかったエリスが更に大人しい事、先程の出来事を踏まえて彼女を心配したギルバートは木陰に近付くと声を掛けた。

「……あ、すみません、大丈夫です」
「表情からはそう見えないな。無理はするなと言っただろう? 昼食がてら、すこし休憩しよう」

 リュダから降りたギルバートは木陰で昼食を取りながら休憩しようと、元気の無いエリスに手を差し伸べた。

 木陰に並んで座り、市場で買って来ていたパンを食べながら、心を落ち着かせていくエリス。

「……分かってはいたけど、自分が死んだ事にされるのは、複雑だなって思いました」
「まあ、そうだな、生きているのに亡くなった事にされるというのは、何とも言えない気持ちだろう」

 ようやく気持ちの整理がついたらしい彼女は胸の内をギルバートに明かしていく。

「シューベルトたちは、本当に私が死んだと思っているのでしょうか?」
「まあ、可能性がゼロでは無いからな。寝込みを襲われ何も持たずに逃げた。しかも腕に傷を負っていたし、逃げたところで格好も格好だったから人前にも出れず、何処かで野垂れ死にするかもしれない……と。だが生きている場合も考えているとみていいだろうから、表では病死と発表しているが死体が見つからない限り捜索は続けるはずだ」
「……もし見つかれば……」
「まず間違い無く殺されるだろうな」

 一度は殺されかけ、逃げ出したら表では死んだ事にされてしまった上に、まだはっきり死んだと分かっていない段階で捜索を打ち切る事はしないとみているギルバートは、見つかれば即殺されるだろうと言った。

 そんなギルバートの言葉にエリスが身震いすると、横並びに座っていたギルバートはエリスの肩を抱いてそのまま自身の方へ引き寄せた。
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