夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す
裏切り者たちの策略
 港へやって来たエリスとギルバートは船着き場でアフロディーテたちルビナ国の者たちがいつ頃帰国するのかを探っていると、三日後の午前中の便に乗るという情報を得た。

 けれど彼女たちが乗る船は一般市民とは別の便でギルバートやエリスは同乗出来ない特別便だった。

 それを知って焦るエリスとは対照的に驚く事すらしないギルバート。

 船着き場から離れて人の居ない場所で足を止めた彼はエリスにこう告げた。

「二日後の夜、皆が寝静まった頃に船に乗り込もう」と。

「え? 乗り込む?」
「ああ、そうだ。奴らが乗る船はセネル家が所有する船だ。何度か忍び込んで海を渡った経験があるからな、構造は熟知している。問題は無い」

 どうやらギルバートは過去にも船に無断で忍び込んで海を渡った経験があるらしく、出航前日の夜に先回りして忍び込み、アフロディーテたちと共にルビナ国へ向かう算段のようだ。

「あの、でも何故そのような危険を冒してまで同じ船に乗るのですか? いっその事、別の船でルビナ国へ渡っても問題無いのでは?」
「葬儀が終わり、セネルに滞在中に今後の話し合いを行う。そしてある程度の話し合いを終えた後で帰国する。しかも船には関係者しか乗っていないとくれば、葬儀や話し合いで疲れていた奴らの警戒心は解かれ、海の上という解放的な場所だからこそ何か重要な話を口にするかもしれない。その決定的瞬間を聞き逃さない為にも、移動中に同じ船に乗る事は絶対条件だ」

 危険を犯してまで同じ船に乗るくらいならば別の船に乗って海を渡ってから改めて情報収集した方がいいのではと思って問い掛けたエリスはギルバートの言葉に納得した。

「そうですよね。まさか私たちみたいな人間が……未だ血眼になって探している本人が船に乗り込んでいるなんて思いませんものね」
「ああ、そうだ」
「でも、乗り込んだとして、話を聞くにはどこかに身を潜めていては意味が無いのでは?」
「それについては俺に考えがある。お前は何の心配もしなくて大丈夫だ」

 エリスとしては色々疑問があるものの、他でもないギルバートが「大丈夫」だと言うのならば心配はいらないと、それ以上何かを質問する事はしなかった。

 そして、二日後の深夜。

 港には数人の見張り兵が辺りを巡回する最中、見つからないよう物陰に身を隠しつつ、目当ての船の側へ辿り着いた二人。

 他の船と違って王族専用の船だからか見張りも多い。

 ここからどのようにして船に乗り込むのかとエリスが不安に思っているさなか、ギルバートはポケットから小石をいくつも取り出すと、四方にある積荷の木箱に当てて音を立てる。

 その音に気付いた見張り兵が辺りを警戒し始めると、さらに今度は地面目掛けて石を投げて音を立てていくギルバート。

 それを四方にするものだから至るところから音が聞こえてきて、見張り兵たちは周りに人が潜んでいると勘違いしたのか、一人を残して船の周辺を調べる為に散っていく。

「エリスはそこで待っていろ」

 そう言い残したギルバートは残った見張り兵に背後から忍び寄ると、後頭部を殴りつけて相手を気絶させ、エリスが身を潜めていた場所へ戻って来た。

「ギルバートさん、この方をどうするつもりなんですか?」

 男の口を布で塞いだ後で、身に付けた肩鎧や籠手を取っていく。

「ギルバート、さん?」
「俺はこれからコイツに成り代わって船内に忍び込む。こういうところの見張り兵は皆その日集められた雇われ兵で互いの顔などいちいち覚えていない。服もバラバラだしな。幸いコイツは俺と背丈も髪色も同じだから、バレないだろう」

 そして、不思議そうな表情を浮かべていたエリスにギルバートは、見張り兵に成り代わって船内へ忍び込む事を告げた。
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