大嫌いなはずなのに。~私を弄んだ御曹司に溺愛されます~
「しっ、失礼しますっ!」
社長室へとやってきた私は、扉をノックした後、そう声を掛けて入室した。
そこには、先程挨拶にやってきたばかりの桐生社長がいた。
高そうなスーツは脱いで、Yシャツ姿である。
「そ、総務部の桜川 美織です!あの、桐生社長がお呼びと聞いてきたのですが…」
恐る恐る桐生社長の顔を見上げると、社長は優しく微笑んだ。
「待ってたよ、桜川さん」
「あ、あの、私が総務から秘書に移動、って本当なのでしょうか…?」
私は社長の顔色を窺いながら、小さく質問する。
桐生社長は気分を害した様子もなく、あっけらかんと答える。
「本当だよ。桜川さんには、今日から僕の秘書になってもらう」
そうはっきりと告げられた。
ほ、本当なんだ…。私が、社長秘書だなんて…。
「お、恐れながら、私、秘書としての仕事なんて全くしたことがありません…。入社してからずっと総務部でしたし…」
「仕事はこれからゆっくり覚えていけばいい」
「で、でもご迷惑じゃ……」
「気にすることはない」
どうしてかこの社長はどうしても私を秘書に任命したいようだった。
どうして私なんだろう…?
その疑問は消えないけれど、私は秘書になる覚悟を決めざるを得なかった。
「ご、ご迷惑をお掛け致しますが、な、何卒よろしくお願いいたします…」
私が渋々ご挨拶をすると、桐生社長がふっと吹きだして笑った。
「え?え?」
私は混乱して桐生社長の笑顔を見つめるばかりだった。