大嫌いなはずなのに。~私を弄んだ御曹司に溺愛されます~
それから数日が経って、仕事が少し落ち着いてきた。
新年度、新体制でのばたばたも大分落ち着いたようだ。
私も少し秘書としての仕事に慣れて、ようやく総務部の引継ぎに手が回るようになった。
軽く引き継いではいたのだけれど、あまりに急な移動だったもので、ちゃんとした引継ぎも、片付けもまだだった。
私は久しぶりに総務部に顔を出した。
「桜川くん、どう?秘書は?」
田辺部長がのほほんと話し掛けてくる。
「ようやく少し慣れてきたかな、って感じでしょうか…」
そう曖昧に返答しながら、今まで使っていたデスクに座る。
ああ、やっぱりここがものすごく落ち着く。
私の居場所は、ここだったのになぁ…。
知り合いだからといって適当に秘書に指名した桐生くんに、脳内で不満をぶつける。
するとちょうど、営業部で同期の小林くんがやってきた。
「桜川!」
「あ、小林くん」
小林くんの手には発注書が握られていて、いつも小林くんが届けに来てくれるのを楽しみにしていたことを思い出した。急に懐かしさを感じる。
「久しぶり」
「久しぶり。桜川、総務部から秘書に移動になったって本当?」
「うん…本当」
そんな人事異動、普通あり得ないので、社内でもかなり話題になったらしい。
「大丈夫?」
小林くんが私の顔色を窺うように覗き込んでくる。
「だ、大丈夫だよ!」
「少し元気がないように見えるけど…」
「大丈夫!慣れない仕事ばかりで少し疲れちゃっただけだよ」
「無理しないで」
「うん、ありがとう」
ここに戻ってくると、やっぱりとても落ち着くし、穏やかな気持ちになれる。
総務部に戻りたい、そう思ってしまう。
でもそれは叶わない。
私は横暴な社長のもとに、戻らなくてはならないのだ。