大嫌いなはずなのに。~私を弄んだ御曹司に溺愛されます~
もうきっとしばらく行くことのない総務部に渋々別れを告げて、私は社長室に戻ってきた。
社長室では、相変わらず桐生くんがパソコンに張り付いていた。
「桜川、お疲れ」
「お疲れ様です…」
「総務部の仕事はもう大丈夫そうか?」
「あ、はい」
「一つ頼みたいんだが…」
桐生くんの秘書になってから数日経つけれど、基本的には仕事の話ばかりで、私の心はやや安定していた。
高校の頃の話を持ち出されようものなら、きっとストレスで胃に穴が空いてしまう。
こうしてただ仕事関係で淡々としていた方が、私としては気が楽だ。
そう思っていたのに…。
「桜川」
「はい」
「今日の夜、空いているか?」
「え?」
桐生くんの問いかけに、私は露骨に嫌な表情をしてしまったのだろう。桐生くんが苦笑いを漏らす。
「ご飯に誘おうと思っただけなんだが、嫌だったか?」
「あ、いや、その…」
嫌に決まっている。
こんな人と二人きりになんか本当はなりたくないのだ。
仕事なので渋々一緒にいるけれど、退社後まで一緒なんて、嫌に決まってる。
そうはっきり言ってしまいたいけれど、私にそんな度胸はなかった。
秘書になって少し給料も上げてもらったし、なにより機嫌を損ねて首になってしまっては困る。
桐生くんのことは嫌いだけれど、私は仕方なくこう答えた。
「ご、ご飯、大丈夫です…」
すると桐生くんは顔をほころばせた。
「よかった、実はもう予約してあるんだ」
「え…?」
「桜川が秘書になったお祝いをまだしていなかったからな」
お祝い?そういうのって普通、社長に就任した桐生くんを祝うものでは…?
やたらとうきうきしていて楽しそうな桐生くんに、私は首を捻った。