大嫌いなはずなのに。~私を弄んだ御曹司に溺愛されます~

「これで分かったか?」


「あ、はい…」


 分かったような分からないような。


 そんなことより、桐生くんの息が首元にかかってくすぐったいし、お腹に回されている手だって恥ずかしい。いいからとにかく離れてほしい!


「美織」


 急に耳元で名前を呼ばれて、私の身体はびくっと跳ねた。


 くすっと笑う桐生くんの声に、なんだか耳がぞわぞわする。


「耳、弱いんだな」


 はむっと耳を甘噛みされ、とんでもなく変な声が出てしまった。


 その反応にまた楽しそうに笑う桐生くん。


 耳にちゅっとキスを落とされて、私は反射的に目をぎゅっとつぶった。


「可愛い…」


 耳元でそう言われた気がする。


 可愛い…?そんなこと、思ってもないくせに…。


 桐生くんの大きな手が、私の太腿に触れる。それがスカートの中にまで入ってきて、私は慌てて立ち上がった。


「あ、ありがとうございました!処理が終わったので帰ります!!」


 私は鞄を持って、急いで社長室を飛び出した。


 エントランスまで降りて来て、やっと一息つく。


「危なかった……」


 また流されるところだった…。会社で、あんなこと…。


 思い出すと身体が熱くなる。


 大嫌いな相手なんかに反応するな!私の身体!


「桜川?」


 声を掛けられて振り返ると、同期の小林くんが立っていた。


「小林くん…」


「お疲れ。桜川も、今終わり?」


「あ、うん、今から帰るところ」


 なんだか小林くんの顔を見るとほっとするなぁ。総務部の頃に戻ったみたい。


「よかったらご飯行かない?美味しい居酒屋さんが近くにあって…」


「行くっ!」


 私は小林くんの誘いに食い気味に飛びついた。


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