大嫌いなはずなのに。~私を弄んだ御曹司に溺愛されます~

 小林くんと少し話した後、私はスマホを忘れたことに気が付いて、社長室に戻った。


 するとまだ桐生くんが残って仕事をしていた。


 私が戻ってきたことに驚いたように声を上げる。


「美織?どうしたんだ?」


「あ、スマホを忘れてしまって」


 そう説明すると、桐生くんはまた少し表情を曇らせた。


「そうか…」


 あ、なんだかこれって、あの時みたいだな、と思った。


 高校生の時、スマホを生徒会室に忘れてしまったあの日。


 私は思い切って、桐生くんの元へと歩みを進める。


「どうした?」


「お仕事中すみません。少しお話してもよいでしょうか?」


「ああ」


 ここ数日、自分の気持ちと向き合ってきた。


 私はどう思っているのか、どうしたいのか。


 小林くんと付き合えたら素敵だな、ってずっと思っていた。


 それなのに、私の心はそうじゃなかった。


 私には、忘れられない恋があったんだ。


「桐生くん、私、小林くんと話してきました」


「そうか…」


「小林くんからの告白、断っちゃいました」


「え…」


 桐生くんは目を丸くした。


「私、きっとずっと桐生くんのことが好きだったんです」


 そうそれはきっと高校生の時から。


 あの時、桐生くんを拒めなかったのも、きっと本当は、彼のことが好きだったから。


 桐生くんは私のことなんてなんとも思っていない。


 他の誰かと同じように、私も遊ばれただけ。


 本当はそれが悲しかったんだ。


 叶わない恋だと分かっていたから、私は自分を守るために自分の気持ちを隠したんだ。


 私の大切な初めてを奪った最低な男と思い込んで。



 私は、桐生くんが好きだったんだ。



< 41 / 43 >

この作品をシェア

pagetop