大嫌いなはずなのに。~私を弄んだ御曹司に溺愛されます~
「あーあ、なんでこんなこと思い出しちゃったんだろ」
それからすっかり擦れた大人に成長してしまった私は、お昼のお弁当を広げながら、空を見上げた。
桜川 美織、28歳。
しがない会社員。
どうしてそんな高校生の時のしょーもない初体験の記憶など思い出してしまったのかと言うと、そうだ、そうだった。
今朝の朝礼時のとある発表のせいだ。
うちは小さな証券会社で、私はその会社の総務部に所属していた。
今朝は珍しく社長が朝礼にやってきて、驚くべきことを口にしたのだ。
「来月より、弊社は子会社となります」
「!?こ、子会社!?」
小さな証券会社であったうちは、兼ねてより取引をしていたブルーホールディングスの子会社になることが決まったらしい。
確かに経営が微妙な時期もあった。
それをいつも支えてくれていたのがブルーホールディングスだった。
子会社化するのもまぁ、頷ける話ではある。
社長の話では、買収されるからと言って、大きく企業形態が変わるわけではなく、私達に知っておいてもらいたいのは、トップが変わるということだった。
ブルーホールディングスさんの社長さんは私も顔見知りだったのだけれど、次年度より、その息子さんが経営を引き継ぐようで、代表が変わる、ということらしかった。
その社長さんの名前がたしか、桐生さんと言った。
そういえばブルーホールディングスさんにご挨拶に行った時も、その名前に引っかかったっけ…。
「高校のときの最悪な出来事ナンバーワンだったな…」
できればなるべく思い出したくない。
ピュアピュアで純粋な高校生の私を弄んだあの男のこと。
「はぁ…」
私は大きくため息をついて、お茶を飲み干した。
「よし!午後もがんばろう!!」