我が家の二人の王子様は、私のことを溺愛しすぎ

第1話 帰ってきた姉弟

 ゴールデンウィーク真っ只中の、5月の始め。
 たくさんの人で賑わう空港の到着口で、私はソワソワしながら人を待っていた。

「華恋、少し落ち着いたら」

 一緒にいたお母さんが、クスリと笑う。
 でもそんなこと言ったって、落ち着いてなんかいられないよ。

 私が待っているのは、幼稚園に通っていた頃仲が良かった友達。
 実に6年ぶりの再会なんだもの。
 会うのが楽しみすぎだよ。

 最後に会ったのが私が小学校に入学する直前だったから、離れていた時間の方が長くなっちゃったけど、私のこと覚えてくれてるかな?
 今はお互い中学生になってるけど、今はどんな感じなんだろう?
 考えると、心臓が高鳴ってくる。

 到着口からはさっき到着した、アメリカからの便に乗っていた乗客が、次々と出てきてる。
 するとまた1人、赤いキャリーバッグを引いた人が出てきたんだけど。
 わ、あの人すごくキレイ。

 たぶん私より少し歳上くらいの、黒髪のショートカットで背の高い、パンツスタイルのお姉さん。
 だけど顔つきがあまりに凛々しすぎて、女の子なのにまるでどこかの国の王子様みたいって思っちゃった。

 でも、あまりジロジロ見るのは失礼だよね。だけどそうわかっていても、つい目で追いかけちゃう。

 すると……あれ、向こうも私のこと見てる?
 え、どうしてこっちに歩いてくるの?
 すると彼女は、私の目の前で立ち止まった。

「君、ひょっとして桜井華恋?」
「えっ? ど、どうして私の名前を……」
「やっぱり! 華恋ー、会いたかったーっ!」
「えっ……わっ、うわぁぁぁぁっ!」 

 頭の中が真っ白になって、声にならない声を上げる。
 だってその美人さんが、ガバッと私に抱きついてきたんだものー!

 ふ、ふぎゃああああっ!
 な、何これ何これ何これー!? どうして私、抱き締められてるのー!?

 わけが分からずにジタバタもがいたけど、背中に回された手がガッチリホールドしていて抜け出せない。
 そして彼女は背中まである私の髪を優しく撫でてきて、それがとても気持ちいい。
 しかもいい匂いまでしてて、はにゃ~んって顔がとろけそうになる。

 こ、このお姉さん何者? 
 いや待って。私のことを知っていたということは、まさか!

「か、香織ちゃん? 香織お姉ちゃんなの?」
「あ、思い出してくれたかい? 久しぶりー!」

 やっぱり。
 笑顔を向けてくる彼女こそ、6年ぶりに会う幼馴染み、草薙香織ちゃん。
 私より1つ歳上のお姉ちゃんなんだけど、すっごく美人になってて、見つめられるとドキドキが止まらないよー!

「おや、どうしたのかな華恋。顔が赤いよ?」
「ふえっ? こ、これはその。香織ちゃんがあまりにキレイになってたから、驚いて」
「ふふっ、嬉しいことを言ってくれるね。だけど私に言わせれば、華恋の方がよほどキレイだよ」
「そ、そんな。私なんて美人でも可愛くもないし、背も低いちんちくりんだよ」

 言ってて悲しくなるけど、事実なんだから仕方ない。
 しかも香織ちゃんといると、余計に際立っちゃうかも。
 すると香織ちゃんは、そっと私の頬に触れてきた。

「ふふっ、なに言ってるの? そんなこと無いよ。名の通り可憐で、可愛らしいもの」
「ふ、ふえ──っ!?」

 ここが空港のロビーってことを忘れて、大声を出しちゃった。
 とってもビックリして、心臓バクバクだよ!
 なのに香織ちゃんときたら。

「ねえ華恋、もう一度抱き締めちゃダメ?」
「え、えーと、それは……」
「ダメ……なの?」

 ひぃ~、そんな捨てられた子犬みたいな目で見ないで~!
 美人の悲しげな顔は、すっごい威力があるんだから~。
 だけど困っていると、私達に近づいてくる影が一つ。

「やめろよな、香織。華恋が困ってるだろ」

 パニックになる中、聞こえてきた声にハッと我に返る。
 声がした方を見るとなんとそこには、香織ちゃんにも負けないくらい美人の男の子が、両手に荷物を抱えて立っていた。

 今言ったのって、この人? 
 男の子だけど、凄くキレイ!

 さらさらとした黒髪で、クールな印象の整った顔立ち。
 さっき香織ちゃんを見て王子様みたいって思ったけど、彼からも似たオーラを感じる。
 あと何だか、目元が似ているような……って、ということはもしかして。

「い、伊織くんなの?」
「ああ……覚えててくれてたんだ」

 香織ちゃんとは逆で、ニコリともしない淡白な反応。
 だけど私は久しぶりに会えた喜びで、胸がいっぱいになる。

 彼の名前は、草薙伊織くん。私と同い年の、香織ちゃんの弟なの。
 伊織くんと会うのも6年ぶりなんだけど、こっちもものすごーく格好よくなってる。
 それでいて幼稚園の頃の面影も残っていて、懐かしくてたまらないよ!

 すると、香織ちゃんが私の頬に触れていた手を放して、不満そうに頬を膨らませる。

「もう伊織、せっかくの再会なんだから、邪魔しないでよ」
「だから、華恋が困ってるって。それに、おばさんにはちゃんと挨拶をしたのか?」

 あ、お母さんのこと、私も忘れてた。
 見ればお母さんは離れた所で私達をながめながら、クスクス笑っている。
 もー、見てたなら助けてよー!

「ふふっ。二人とも久しぶりね。会えて嬉しいわ」

 ニコニコ笑いながら、挨拶をするお母さん。
 それから4人で少し話して、空港内のレストランでご飯を食べようってことになったの。
 あ、でもその前に。

「伊織くん、荷物半分持つよ。1人でそれだけ抱えるのは重いでしょ」

 香織ちゃんはキャリーバッグ1つを転がしてるだけだけど、伊織くんは両手にボストンバッグを抱えていて、凄く重そうだもの。
 だけど手を伸ばしても、伊織くんはプイって横を向いちゃった。

「別にいい。華恋に持ってもらうほど、ヤワじゃないから」
「えっ、でも……」
「いいって言ってる」
「ご、ごめん」

 強い声に伸ばしていた手を引っ込めると、伊織くんは私を避けるように、つかつかと先に行っちゃう。
 どうしよう、機嫌損ねちゃったかな?

 すると香織ちゃんが、ポンと肩に手を置いてくる。

「心配しなくていいよ。伊織のやつ久しぶりに華恋に会って、照れてるだけだから」
「そうなの? 凄く機嫌悪そうに見えたけど」
「平気だって。それとも華恋は、私のこと信じてくれないの?」
「し、信じる。信じるから、いちいち手を握らなくても大丈夫ですー!」

 伊織くんとは対照的に、スキンシップ過剰な香織ちゃん。
 こっちはこっちで、心臓に悪いかも。
 香織ちゃんはアメリカ暮らしが長かったから、もしかしたら向こうではこれが普通なのかなあ?

 けど、これからは慣れていかなくちゃだね。
 だってこれからは、一緒に生活していくんだもん。

 香織ちゃんと伊織くん。
 6年ぶりに二人が日本に帰ってきたのは、私の家で暮らすからだった。

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