我が家の二人の王子様は、私のことを溺愛しすぎ

第17話 続く嫌がらせ

 昼休みに一悶着あって、伊織くんに元気をもらったけど。
 教室に戻った後で、香織ちゃんや真奈ちゃんと話すことはできなかった。

 だって事情を説明するわけにはいかない以上、何を話せばいいか分からないもの。
 先に拒絶したのは私なんだから自業自得なんだけど、寂しいし苦しい。
 でも、我慢しなくちゃだよね。

 だけど、昼間の騒動は思わぬ形でぶり返したの。
 事が起こったのは、授業が終わった後。
 この日私は委員会の仕事で、放課後集まっていたの。

 私が入っているのは美化委員。
 今日は校内にある掃除用具の数の確認をしなくちゃいけなくて、それぞれ別れて色んな所にある掃除用具を点検していたんだけど、私の担当は外庭。
 上履きから靴に履き替えて外に出て、掃除用具を見て回っていた。
 だけどそんな折……。

「桜井さん、ちょっといい?」

 校舎の側にある掃除用具入れの中を確認していると、不意に後ろから声をかけられて、振り返るとそこにいたのは……大場さん?

 彼女は怒ったような顔をして立っていて、それを見た瞬間、瞬時に察した。
 きっと昼休みの件で、何か言いにきたんだ。

 すると大場さんはズカズカと近づいてきて。
 私は思わず後ずさりしたけど、すぐに後ろにあった校舎の壁に阻まれ、退路を塞がれた。

「桜井さん、昼間のあれは何? アンタのせいで 香織お姉様がどれだけ傷ついたと思ってるの!?」

 ──っ! やっぱりその事だよね!

 あの時大場さんも教室の中にいただろうし、香織ちゃんに酷い態度を取ったのも見てたに違いない。
 大場さんは香織ちゃんのファンだから、怒るのも無理ないよね。

「アンタが出ていった後、どれだけ大変だったか。香織お姉様、まるで魂が抜けた抜け殻みたいになって、いくら名前を呼んでも反応しないし。みんなで保健室に運んだんだからね!」

 ええっ、私がいない間に、そんな事になってたの!?
 傷つけたのは分かっていたけど、思ってたよりずっとショックが大きかったみたい。

「お姉様は優しいから、アナタのことを責めないでって言ってたけど、私は納得してないから! どういうことか、ちゃんと説明して!」

 今にも噛みつきそうな勢いの大場さん。
 でも、事情を話すわけにはいかないよね
 だけど……。

「どうなの? 何とか言いなさい!」

 大場さんは、とても逃がしてくれそうにない。
 どうしよう。後ろは校舎の壁に阻まれていて、下がることもできないし。
 どうしよう、どうしよう……。

 ──バシャン!

 ……なんて返事をすればいいか分からずに焦っていると、不意に全身に冷たさが襲った。
 比喩じゃない。本当に身体中が冷えて、体温が下がったんだ。

「きゃあっ! 何なのこれ!?」

 さっきまで怒っていた大場さんが、今度は驚いたような顔で後ずさった。
 見れば彼女の腕やスカートの一部は、何故か水で濡れている。
 ううん、濡れてるのは、大場さんだけじゃない。
 何が起きたのか分からなくて気がついてなかったけど、私の前髪からもポタポタと水滴が落ちているじゃない。
 この時になってようやく、頭から水を掛けられたんだって気がついた。

「ちょっと、誰さ水こぼしたの!」

 校舎を見上げて、叫ぶ大場さん。
 私もつられて上を見上げたけど、そこには開いた窓が見える。

 けど、人影はない。
 水をこぼした誰かが、怖くなって行っちゃったのかな? 
 ううん、違う。これはきっと、わざとかけられたんだ……。

 髪はまるでシャンプーをした後みたいに濡れていて、ブラウスが肌に張り付いて気持ち悪い。
 ちょっと水をこぼしたくらいじゃ、ここまでは濡れない。

 頭をよぎるのは、連日続いている嫌がらせ。
 たぶんこれも、その一つだ。
 昼間香織ちゃんには冷たい態度を取ったけど、その後伊織くんには慰められた。
 もしかしたら犯人はそれを見ていて、怒ったのかもしれない。
 冷えた体と執拗に狙ってくる相手の恐ろしさで、震えてくる。

 そしてもう一つ、放っておけない事が。

「お、大場さん、大丈夫? 体、冷えてない?」

 狙われたのは私なのに、巻き添えを食らってしまった大場さん。
 全身ずぶ濡れとまではいかないけど、跳ねた水が掛かっちゃってる。
 タオルでも、この際ハンカチでもいいから渡したいけど、生憎大量の水をかぶった私のポケットに入ってるハンカチも、やっぱりずぶ濡れだよね。
 すると大場さんは、呆れたように口を開く。

「人の心配をしてる場合? 私より、アンタの方が酷いじゃないの。ああ、もう、言いたいことは山ほどあるってのに……まずは着替えるよ!」

 う、そうだった。
 最近暖かくなってきたけど、いつまでもこの格好でいたら風邪引いちゃう。
 まだ委員会の仕事は途中だけど、大場さんと一緒にその場を後にする。
 幸い今日は体育の授業があったから、とりあえずジャージに着替えなきゃ。
 そして移動している間も、大場さんはご立腹だ。

「それにしても、こんな目に遭わせておいて逃げた奴にもムカつく! どこの誰か知らないけど、見つけてとっちめてやる」
「大場さん……ごめんなさい」
「はあ? なんでアンタが謝るわけ?」

 大場さんはわけが分からないって様子だったけど、大場さんが巻き込まれたのは私のせいなんだもの。
 気を付けてるつもりだったけど、まだまだ甘かったみたい。

 もっと……もっとしっかりしなきゃ。
 だけど香織ちゃんや伊織くんとこれ以上距離を置いて、傷つけるのも嫌。

 いったい、どうすればいいんだろう?

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