我が家の二人の王子様は、私のことを溺愛しすぎ

第19話 打ち明けた秘密

 所変わって私の部屋。
 香織ちゃんと伊織くんが、深刻な顔をしている。
 ちなみに伊織くんはちゃんと、服を着ている。
 お風呂に入るつもりだったんだろうけど、それどころじゃないって言って、一度脱いだ服に再び袖を通してUターン。
 香織ちゃんも含めた三人で、私の部屋までやってきたわけだけど。

 部屋の主である私は真ん中で正座してうつ向いていて、伊織くんと香織ちゃんは手に、数枚の紙を握っている。
 それは連日私の所に届いていた、脅迫状だ……。

「なんだよ、これ……」

 伊織くんの低く冷たい声に、ビクンと身を震わせる。
 やっぱり、怒ってるよね。こんな大事なことを、今まで黙ってたんだもの。
 そして香織ちゃんはというと……。

 ビリッ!

 手にしていた脅迫状のうち一枚を真っ二つに裂いたかと思うと、続けて何回もビリビリに破いていく。

 その目は血走っていて、いつもの明るい笑顔とはかけ離れててちょっと怖い。
 だけど、そんな香織ちゃんに伊織くんは物怖じせずに話しかける。

「おい、やめろ。少し落ち着け」
「これが落ち着いていられる!? 華恋がこんな物送られていたんだよ! ていうか伊織、よく平気でいられるね!」
「平気なわけないだろ。……腸が煮えくりかえっているよ」

 静かに、だけどまるで地獄のそこから響いてくるような声からは、静かな怒りを感じる。
 香織ちゃんと違って叫びはしないけど、伊織くんも本気で怒ってる!

 どうしよう、私のせいだ!
 私は正座をしたまま床に手をついて、二人に土下座をする。

「本当にゴメン! 自分で何とかしなくちゃいけなかったのに、二人を巻き込んで、嫌な思いさせて……」
「違う、華恋は何も悪くない! 悪いのはこの、手紙を送った奴だよ」
「同感。どこのどいつか知らないけど、必ず見付だして後悔させてやる」

 二人は私を、慰めながら立たせる。
 それから今まで何があったのかを、詳しく話した。
 上履きに画鋲が入れられていたこと。私だけじゃなく、真奈ちゃんの上履きにも入れられてたこと。

 伊織くんや香織ちゃんと仲良くしてたら真奈ちゃんまで何かされるかもしれないから、三人と距離を置こうとした。
 だけど今日も水を掛けられて、そのためジャージで帰ってきたことも、全部。

「そんなに……伊織、やっぱり聞いて良かったじゃない。話してくれるのを待ってるなんて、悠長なこと言ってる場合じゃなかったでしょ」
「悪い……今回は完全に俺が間違ってた。ああ、くそ! こんなことなら、昼休みに詳しく聞いておくべきだった!」

 伊織くんは自分を責めてるけど、それは私が悪いんだよ。

「とにかく、早いとこ犯人を見つけてとっちめなきゃ。華恋にこんなことして、ただじゃおかない」
「待って香織ちゃん。見つけるって、いったいどうやって? 手掛かりは何もないんだよ」
「それは……伊織、アンタ頭良いんだから、何とかできない? こういう時のために、刑事ドラマ観てるんでしょ」

 香織ちゃん、そんな無茶な。
 だけど予想に反して、伊織くんはコクンと頷いた。

「任せろ。幸い、手掛かりならある」
「え、どこに?」

 私にはさっぱり分からなかったけど、伊織くんは手にしていた手紙をスッと差し出してくる。

「この送られてきた脅迫状だ。手書きで書かれてることからも、犯人の不用心さが分かる。調べられてもバレないって思っていたのか、それともそもそも調べると思っていなかったのかは知らないけど。だから香織、大事な手掛かりを破らないでくれ」

 香織ちゃんは、「そういう事は先に言ってよ」って言ってるけど、私もちょっとビックリ。
 確かにこれが犯人に繋がる唯一の品だけど、こんな手紙だけで見つけられるものなのかな?

「とにかく、取り扱いは慎重に。それと犯人を見つけるには時間が掛かるだろうけど、それまでに何かされないよう、学校ではできるだけ華恋の傍にいてガードしておいた方がいいな」
「え? けどそれだと、犯人を怒らせちゃうんじゃ……」

 私は守ってもらえるかもしれないけど、もしも犯人が標的を真奈ちゃんや他の友達に変えたら?
 そうなったら自分が何かされるよりも、よっぽど嫌だよ。
 だけど香織ちゃんが、優しく背中をさする。

「任せといて。華恋の友達も、絶対に守るから。と言うか、いくら怖いからって距離を置かれるのはもうたくさんだし、真奈ちゃんだってそっちの方が嫌なんじゃないの? あの子もだいぶ気にしてたよ」

 う、それは……。
 真奈ちゃんまで被害に遭わないよう距離を作ってたけど、そのせいで余計に傷つけてしまっていたかと思うと、胸が苦しくなる。
 きっとたくさん、心配掛けていたんだろうなあ。

「とにかく、これ以上好きにはさせない。明日から行動開始だ」

 力強い声で、宣言する伊織くん。
 その顔はとても頼もしくて、苦しかったはずの胸の奥が、少しキュンってなった。
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