我が家の二人の王子様は、私のことを溺愛しすぎ

第28話 私たちの恋

 1日かけて水族館を満喫して、夕方。
 電車に乗って、町まで帰ってきた私達。
 後はこのまま帰るだけ……だったんだけど。
 駅を出たところで、香織ちゃんが足を止めた。

「ねえ、実はもう一ヶ所寄りたい所があるんだけど、いいかな?」
「今から寄り道?」
「うん。大丈夫、そんなに時間は掛からないよ」

 まあそれなら。
 香織ちゃんは相変わらず行き先を告げないまま、手を引っ張って連れいくけど……あれ、この道って……。

 歩いていくうちにどこに向かっているのか、何となく分かってきた。
 そうしてたどり着いたのは、小さな公園。
 昔私達がよく遊んだ、思い出の場所だった。

「寄り道って、ここだったんだ。昔よく、ここで遊んだよね」
「だね。あの頃、誰が一番大きくブランコをこげるか競争してたけど、ブランコってこんなに小さかったんだね」

 香織ちゃんの言う通り、ブランコだけじゃなく砂場も滑り台も、記憶の中にあるものよりだいぶ小さい。
 ここにはしばらく来てなかったけど、私達が大きくなったんだよね。

 懐かしい気持ちが込み上げてきたけど、香織ちゃんはそんな私を見つめながら、そっと告げる。

「私はあの頃からずっと、華恋のことが好きだよ。もちろん今も」
「えっ?」

 唐突に告げられて、時が止まる。
 香織ちゃんはジッとこっちを見つめてきて、私はまるで意思にでもなったみたいに動けない。

 う、うん。香織ちゃんが私のことを好きだって言うのは、もちろん知ってる。
 だけどどうして今、改めて言うんだろう?

「回りくどいのは嫌いだから、ハッキリ言うね。華恋、私のことを選んでほしい。伊織じゃなくて、私を」
「──っ!」

 息が止まった。

 もしかして香織ちゃん、私が伊織くんが好きだって、気づいてる?
 改めてされた告白といい、わざわざ伊織くんの名前を出した事といい、そうとしか考えられない。

 けど、いったいどう答えたら良いの?
 私が好きなのは伊織くん。だけど香織ちゃんとの関係も壊したくないって思うのは、ワガママなのかな。

 だけど言葉に詰まったまま返事ができずにいると、香織ちゃんは悟ったみたいに、フッと寂しそうに笑う。

「……やっぱり、私の気持ちに応えてはくれないか」
「ち、違っ……」
「いいの。何となく、こうなるって気はしてたから。最近の華恋を見てたらさ、気持ちが誰に向いてるのかくらい分かるよ。昔からずっと、好きな子の事だものね」

 やっぱり、とっくに気づいてたんだ。
 伊織くんも私の様子が変なことには気づいてたけど、香織ちゃんも全部お見通しだったみたい。

 けどそれじゃあ香織ちゃんは、今日どんな気持ちでデートに誘ったんだろう。
 考えたら切ない気持ちが込み上げてきて、泣きそうになる。
 泣きたいのはきっと、香織ちゃんの方なのに……。

「こらこら、そんな顔しないで。私はなにも、華恋を困らせたくて言ったんじゃないんだなら」
「香織ちゃん……ごめん……」
「謝るのも無し。けどそれなら、一つだけお願いを聞いてくれないかな。……ちょうど来たみたいだね」
「え?」

 香織ちゃんが目を向けたのは、公園の入り口。
 そこには、さっきまでなかった人影があったけど、あれは……。

「い、伊織くん!?」

 そこにいたのは、走ってきたのか息を切らしている伊織くんだった。
 そしてその顔色は悪く、顔面蒼白といった様子。
 い、いったいどうしたの? 大丈夫!?

 すると香織ちゃんが、そんな伊織くんに近づいて行く。

「ふふっ、やっぱり来たね」
「当たり前だろ、あんなメッセージ送って。それで……どうなったんだ?」
「さあ。気になるなら、華恋に聞いてみたら」

 二人はよく分からない話をしてるけど、私は伊織くんが心配だよ。
 すると彼は強ばった顔をしながら、こっちにやってくる。

「華恋……」
「な、なに?」
「香織と……付き合うことにしたのか?」
「えっ?」

 伊織くんもしかして、香織ちゃんが告白してきた事を知ってるの?

「ま、待って。香織ちゃんとは、付き合ってないよ」
「いや、でも……華恋は香織の事を選んだって。最近俺への態度が変だったのは、それで気を使ってたせいだって」
「え、ええーっ!? それ、誰が言ったの?」
「誰って、さっき香織からメッセージが送られてきて……今日は二人でデートしてるって言うし、改めて告白するって言うから、こうして来たんだけど……」

 伊織くんは話が噛み合ってないことに気づいたのか混乱した様子だったけど、きっとすごく焦って来たんだろうなあ。
 息を切らせて、顔色も悪い。
 香織ちゃんが何を思ってそんなメッセージを送ったのかは分からないけど、とても心配だったのは分かる。

 騙されてたと知った伊織くんは香織ちゃんをジトッと見たけど、当の本人はクスクス笑ってるよ。

「香織ちゃん、いったい何を考えてるの?」
「ちょっとね……それより、さっき言ったお願いの続き。今の気持ちを、ちゃんと伊織に伝えてあげてくれないかな」
「えっ? い、今から?」
「そう。元々、勝ち確定の告白じゃない。先延ばしにすることに、意味なんてないよ」

 伊織に聞こえないよう、小声で言ってくる香織ちゃん。
 それは確かにそうかもしれないけど、今からってそんな。心の準備だって、全然できていないのに。
 だけど……。

「お願い……私をちゃんと、諦めさせてよ」

 あ……。

 笑顔の中に一瞬、香織ちゃんの本音が見えた。
 顔は笑っているのに、目だけはとても切なそう。

 そうだよね。さっき私は、香織ちゃんをふっちゃったんだ。
 あんなに好きでいてくれてたのに……。

 顔は笑っているけど、気にしてないわけないよね。
 香織ちゃんは私がどう答えるか分かっていて、それでも気持ちを告げてきたのに、私はいったい、何をやっているんだろう。

 香織ちゃんは勇気をお裾分けしてくれるみたいに、私の背中を押してくれる。

「華恋、お願いね」

 言い残して、公園の入り口へと消えていく。
 事情の分からない伊織くんは、「いったい何なんだ?」って、首をかしげているけど……。

「い、伊織くん……」
「華恋?」
「私……伊織くんのことが好き!」

 さっきまであんなにオドオドしてたのに。
 前振りも何もなく、いたってシンプルに、自分の気持ちを告げた。

 少女漫画だと、もっと素敵な言い回しやシチュエーションでの告白がほとんどだけど、私が言うことができたのは凄く簡単な言葉。
 だけどこれは紛れもない、私の本当の気持ち。
 告白なんてしたのは初めてで、ぎゅっと握った手は震えて、緊張で背中に汗が伝う。

 そしていきなりこんな事を言われて、伊織くんもすっごくビックリしたと思う。
 目を見開いて固まっちゃってたけど、少しの沈黙の後ハッとしたように声をもらした。

「好きって……待ってくれ。俺が都合のいい夢を見てるんじゃないんだよな。香織じゃなくて、俺を……」
「うん……変な態度取っちゃってて、ごめんね。私が好きなのは、伊織くんだよ。伊織くん、前に私の事を好きだって言ってくれたけど……今でも、変わらずいてくれてる?」

 少しでも気を抜いたら、緊張で意識が飛びそう。
 答えを先延ばしにして待たせちゃっていたんだもの。
 その間に心変わりがあっても不思議じゃないし、文句は言えない。
 だけど伊織くんは私の震える手を取って、握りしめてきた。

「当たり前だろ。昔も今も、ずっと華恋の事が好きだ。華恋も同じ気持ちでいてくれるのなら……俺と付き合ってほしい」
「わ、私も伊織くんのことが大好きだから……伊織くんの、彼女にしてください!」

 握られていた手を、ギュッと握り返す。
 胸がキュンって締め付けられて、大好きが溢れていく。

 もう、逃げたり怖がったりしない。
 伊織くんも、それに香織ちゃんだって、再会してからずっと真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれてたんだもの。
 私もちゃんと伝えて、応えていかなきゃ。

 私達はお互いの気持ちを確かめ合うように、はにかみながら笑い合う。

 伊織くん、大好きだよ。
 私はまだまだ恋愛に関しては初心者だけど。
 これからたくさんの気持ちを、伝えていけますように。
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