我が家の二人の王子様は、私のことを溺愛しすぎ
第4話 転校と秘密の同居
香織ちゃんと伊織くんがうちに来てから少し経ったけど。
香織ちゃんは毎日楽しそうでよく私に抱きついてきて、伊織くんはそんな香織ちゃんをベリッと引き離しながら不機嫌そうに「華恋にくっつきすぎ」なんて言ってる。
そうしているうちに、ゴールデンウィークはおしまい。
そして今日から二人は、私の通う中学校に転校してくるの。
香織ちゃんは、1学年上の2年生に。そして伊織くんはというと……。
「草薙伊織です。少し前まで、アメリカに住んでいました。よろしくお願いします」
淡々とした口調で自己紹介をしてるのは、うちの中学の制服を着た伊織くん。
私はそれを自分の席で、保護者のような気持ちで見守っていた。
そう、伊織くんが入るのは、私のクラスなんだよ。
香織ちゃんは、「伊織ばっかりズルい」って拗ねてたけど、ゴメン。
私は伊織くんと同じクラスになれて、嬉しいや。
するとそんな私の肩を、隣の席の水無瀬真奈ちゃんがちょんちょんとつついてきた。
「ねえ、草薙くんってメッチャ格好よくない？ 頭小さいしイケメンだし、まるでモデルさんみたい」
「う、うん。そうだね」
真奈ちゃんはクラスで一番仲の良い友達だけど、伊織くんがうちに住んでるって言ったらどんな顔するかなあ？
いずれはバレちゃうだろうから、本当は自己紹介の時に言ってもらって良かったんだけど、昨日伊織くんと相談して決めたの。
一緒に暮らしてることは、ナイショにしておこうって。
だって伊織くん、凄く格好いいんだもの。
一緒に住んでるのがバレたら、なんて言われるか分からないじゃない。
特に女子からは、下手したらにらまれてもおかしくないかも。
だから伊織くんには、少しの間黙ってくれるよう、お願いしてたんだよ。
そして予想した通り、伊織くんは転校早々すごい人気。
休み時間になると席の周りには、人だかりができた。
「草薙くんって格好いいよね。前の学校では、彼女とかいたの？」
「アメリカに住んでたってことは、英語もペラペラなんだよね。憧れるー」
「ね、ねえ。2年生にも凄く格好いい女子の先輩が転校してきたって聞いたんだけど、草薙くんのお姉さんなの？ イケメン姉弟なんて凄すぎない!?」
どうやら香織ちゃんの噂も、すでに流れてきてるみたい。
伊織くんも香織ちゃんも格好いいから、美男美女の転校生姉弟として有名になるのも時間の問題かも。
ただ伊織くんは繰り返される質問攻めに対して、「そう」とか「違う」とか、淡白な返事ばかり。
うーん、家ではそこそこしゃべれるようになったけど、初めての学校だから緊張してるのかなあ。
香織ちゃんの方は、どうなんだろう？
クラスも学年も違うから向こうの様子は分からないけど、まあ香織ちゃんなら大丈夫か。
案外もう、クラスに打ち解けてたりして。
「あはは、転校生くん凄い人気だねー。って、華恋どうしたの？ 転校生くんの事じーっと見て。もしかして、華恋も気になっちゃってる？」
「え、えーと。ま、まあそうなんだけど」
「えっ、本当に!? 華恋って、ああいうのがタイプだったんだ」
真奈ちゃんが目を輝かせてるけど、絶対勘違いしてるよね。
私は友達として、伊織くんのことを心配してるんだよー。
大勢から立て続けに質問されて疲れてるように見えるし、フォローした方がいいのかな。
けど、伊織くんの周りにいるのはいずれも、クラスの中心にいる女子やそのグループの子達。対して私は、発言力の無いモブキャラ。
残念ながらしゃしゃり出たところで、力になれるとは思えない。
結局何もできないまま時間が過ぎて、迎えた昼休み。
伊織くんの周りには、相変わらずたくさんの女子が集まっている。
「草薙くん、転校してきたばかりで分からないことも多いでしょ。アタシが学食に案内してあげる」
伊織くんの手を取りながらそう言ってるのは、クラスの女子のリーダー、大場さん。
うちの学校は給食はなくて、代わりにお弁当を持ってきたり、学食を利用したりするんだけど、伊織くんは首を横に振る。
「いい。昼は弁当を持ってきたから」
「そうなの？ でも、学食でみんなで食べようよ。あそこお弁当、持ち込みオーケーだから」
「悪いけど、実は先約が……」
「いいからいいから」
背中を押されて、急かされる伊織くん。けどあれって、困ってるよね。
伊織くんのお弁当は、朝お母さんが作って持たせたもの。
そして実は、お昼は一緒に食べようって約束してたんだもの。
どうしよう。今までは見守るしかできなかったけど、約束したのに助けないのは、良くないよね。
それに朝からの質問攻めで伊織くん疲れてるみたいだし、お昼くらいゆっくりさせたい。
けど、出しゃばってにらまれたらどうしよう……。
そんなことを考えていると、伊織はこっちを見てきて、目が合った。
やっぱり、放ってなんておけない。
ええーい、ゴチャゴチャ考えるのはやめる！
私は急いで連れていかれようとする伊織くんを追いかけて、彼を引っ張っている大場さんの腕を掴んだ。
「あの、大場さん。ちょっといいかな？」
「なに桜井さん。私達忙しいんだけど」
「えっと、その……伊織くんを、貸してくれないかな」
「は？」
ううっ、分かってはいたけど、コイツ何言ってんだって目で見られてる。
真奈ちゃんも驚いたように、「華恋大胆！」って言ってるよ。
「どうして草薙くんを、桜井さんなんかに貸さなきゃいけないの！」
「と言うかさっき『伊織くん』って、名前で呼んでなかった？」
「馴れ馴れしいっての。どっか行ってよ！」
罵詈雑言を浴びせられた挙げ句、最後は大場さんに突き飛ばされた。
「キャッ!?」
バランスを崩した私は、短い悲鳴を上げる。
予想はしていたけど、やっぱり私の扱いなんてこんなもの。
突き飛ばされた私は、そのまま床に倒れ……。
「華恋！」
倒れ……てない？
名前を呼んで手を掴んでくれたのは……伊織くん!?
周りにいた女子をかき分けて手を引っ張ってくれたかと思うと、そのまま私を胸に抱くように受け止めてくれた。
って、ちょっと待って！
ひ、ひえ～！ 私今、伊織くんに抱き締められてる!?
厚い胸板に顔を押し付けられて、心臓が跳ね上がりそうになる。
伊織くん、線は細いけどこうしてくっついてみると、案外たくましい。
昔は身長も同じくらいだったのに今はすっかり大きくなっていて。
力強い腕でギュ～って抱き締められたら、ドキドキしすぎておかしくなりそう。
そして驚いているのは、私だけじゃない。
周りにいた女子達はもちろん、教室のあちこちからキャーって悲鳴が上がる。
そりゃそうだよね。いきなり抱き締めてきたんだもの。
だけど騒ぎはまだ終わらない。
伊織くんは突き飛ばした大場さんを見ながら、ハッキリとした声で告げる。
「華恋に乱暴するな！」
「ご、ごめん。って、待って。今呼び捨てにしてなかった？ ひょっとして二人、知り合いなの？」
「ああ……華恋は、俺の大切な人だ。今は一緒に暮らしてる」
「へ？……ええええぇぇぇぇぇぇっ!?」
さっきよりも、さらに大きな悲鳴が上がった。
だけど驚いたのは私も一緒。
ちょっ、ちょっと伊織くん。それはナイショにするって言ったじゃん。
すると伊織くんは私を少し離すと、気まずそうに言う。
「……悪い、約束守れなかった」
たぶん、勢いでつい言っちゃったんだろうね。
申し訳なさそうに謝られたけど、もう遅いよー！
香織ちゃんは毎日楽しそうでよく私に抱きついてきて、伊織くんはそんな香織ちゃんをベリッと引き離しながら不機嫌そうに「華恋にくっつきすぎ」なんて言ってる。
そうしているうちに、ゴールデンウィークはおしまい。
そして今日から二人は、私の通う中学校に転校してくるの。
香織ちゃんは、1学年上の2年生に。そして伊織くんはというと……。
「草薙伊織です。少し前まで、アメリカに住んでいました。よろしくお願いします」
淡々とした口調で自己紹介をしてるのは、うちの中学の制服を着た伊織くん。
私はそれを自分の席で、保護者のような気持ちで見守っていた。
そう、伊織くんが入るのは、私のクラスなんだよ。
香織ちゃんは、「伊織ばっかりズルい」って拗ねてたけど、ゴメン。
私は伊織くんと同じクラスになれて、嬉しいや。
するとそんな私の肩を、隣の席の水無瀬真奈ちゃんがちょんちょんとつついてきた。
「ねえ、草薙くんってメッチャ格好よくない？ 頭小さいしイケメンだし、まるでモデルさんみたい」
「う、うん。そうだね」
真奈ちゃんはクラスで一番仲の良い友達だけど、伊織くんがうちに住んでるって言ったらどんな顔するかなあ？
いずれはバレちゃうだろうから、本当は自己紹介の時に言ってもらって良かったんだけど、昨日伊織くんと相談して決めたの。
一緒に暮らしてることは、ナイショにしておこうって。
だって伊織くん、凄く格好いいんだもの。
一緒に住んでるのがバレたら、なんて言われるか分からないじゃない。
特に女子からは、下手したらにらまれてもおかしくないかも。
だから伊織くんには、少しの間黙ってくれるよう、お願いしてたんだよ。
そして予想した通り、伊織くんは転校早々すごい人気。
休み時間になると席の周りには、人だかりができた。
「草薙くんって格好いいよね。前の学校では、彼女とかいたの？」
「アメリカに住んでたってことは、英語もペラペラなんだよね。憧れるー」
「ね、ねえ。2年生にも凄く格好いい女子の先輩が転校してきたって聞いたんだけど、草薙くんのお姉さんなの？ イケメン姉弟なんて凄すぎない!?」
どうやら香織ちゃんの噂も、すでに流れてきてるみたい。
伊織くんも香織ちゃんも格好いいから、美男美女の転校生姉弟として有名になるのも時間の問題かも。
ただ伊織くんは繰り返される質問攻めに対して、「そう」とか「違う」とか、淡白な返事ばかり。
うーん、家ではそこそこしゃべれるようになったけど、初めての学校だから緊張してるのかなあ。
香織ちゃんの方は、どうなんだろう？
クラスも学年も違うから向こうの様子は分からないけど、まあ香織ちゃんなら大丈夫か。
案外もう、クラスに打ち解けてたりして。
「あはは、転校生くん凄い人気だねー。って、華恋どうしたの？ 転校生くんの事じーっと見て。もしかして、華恋も気になっちゃってる？」
「え、えーと。ま、まあそうなんだけど」
「えっ、本当に!? 華恋って、ああいうのがタイプだったんだ」
真奈ちゃんが目を輝かせてるけど、絶対勘違いしてるよね。
私は友達として、伊織くんのことを心配してるんだよー。
大勢から立て続けに質問されて疲れてるように見えるし、フォローした方がいいのかな。
けど、伊織くんの周りにいるのはいずれも、クラスの中心にいる女子やそのグループの子達。対して私は、発言力の無いモブキャラ。
残念ながらしゃしゃり出たところで、力になれるとは思えない。
結局何もできないまま時間が過ぎて、迎えた昼休み。
伊織くんの周りには、相変わらずたくさんの女子が集まっている。
「草薙くん、転校してきたばかりで分からないことも多いでしょ。アタシが学食に案内してあげる」
伊織くんの手を取りながらそう言ってるのは、クラスの女子のリーダー、大場さん。
うちの学校は給食はなくて、代わりにお弁当を持ってきたり、学食を利用したりするんだけど、伊織くんは首を横に振る。
「いい。昼は弁当を持ってきたから」
「そうなの？ でも、学食でみんなで食べようよ。あそこお弁当、持ち込みオーケーだから」
「悪いけど、実は先約が……」
「いいからいいから」
背中を押されて、急かされる伊織くん。けどあれって、困ってるよね。
伊織くんのお弁当は、朝お母さんが作って持たせたもの。
そして実は、お昼は一緒に食べようって約束してたんだもの。
どうしよう。今までは見守るしかできなかったけど、約束したのに助けないのは、良くないよね。
それに朝からの質問攻めで伊織くん疲れてるみたいだし、お昼くらいゆっくりさせたい。
けど、出しゃばってにらまれたらどうしよう……。
そんなことを考えていると、伊織はこっちを見てきて、目が合った。
やっぱり、放ってなんておけない。
ええーい、ゴチャゴチャ考えるのはやめる！
私は急いで連れていかれようとする伊織くんを追いかけて、彼を引っ張っている大場さんの腕を掴んだ。
「あの、大場さん。ちょっといいかな？」
「なに桜井さん。私達忙しいんだけど」
「えっと、その……伊織くんを、貸してくれないかな」
「は？」
ううっ、分かってはいたけど、コイツ何言ってんだって目で見られてる。
真奈ちゃんも驚いたように、「華恋大胆！」って言ってるよ。
「どうして草薙くんを、桜井さんなんかに貸さなきゃいけないの！」
「と言うかさっき『伊織くん』って、名前で呼んでなかった？」
「馴れ馴れしいっての。どっか行ってよ！」
罵詈雑言を浴びせられた挙げ句、最後は大場さんに突き飛ばされた。
「キャッ!?」
バランスを崩した私は、短い悲鳴を上げる。
予想はしていたけど、やっぱり私の扱いなんてこんなもの。
突き飛ばされた私は、そのまま床に倒れ……。
「華恋！」
倒れ……てない？
名前を呼んで手を掴んでくれたのは……伊織くん!?
周りにいた女子をかき分けて手を引っ張ってくれたかと思うと、そのまま私を胸に抱くように受け止めてくれた。
って、ちょっと待って！
ひ、ひえ～！ 私今、伊織くんに抱き締められてる!?
厚い胸板に顔を押し付けられて、心臓が跳ね上がりそうになる。
伊織くん、線は細いけどこうしてくっついてみると、案外たくましい。
昔は身長も同じくらいだったのに今はすっかり大きくなっていて。
力強い腕でギュ～って抱き締められたら、ドキドキしすぎておかしくなりそう。
そして驚いているのは、私だけじゃない。
周りにいた女子達はもちろん、教室のあちこちからキャーって悲鳴が上がる。
そりゃそうだよね。いきなり抱き締めてきたんだもの。
だけど騒ぎはまだ終わらない。
伊織くんは突き飛ばした大場さんを見ながら、ハッキリとした声で告げる。
「華恋に乱暴するな！」
「ご、ごめん。って、待って。今呼び捨てにしてなかった？ ひょっとして二人、知り合いなの？」
「ああ……華恋は、俺の大切な人だ。今は一緒に暮らしてる」
「へ？……ええええぇぇぇぇぇぇっ!?」
さっきよりも、さらに大きな悲鳴が上がった。
だけど驚いたのは私も一緒。
ちょっ、ちょっと伊織くん。それはナイショにするって言ったじゃん。
すると伊織くんは私を少し離すと、気まずそうに言う。
「……悪い、約束守れなかった」
たぶん、勢いでつい言っちゃったんだろうね。
申し訳なさそうに謝られたけど、もう遅いよー！
