我が家の二人の王子様は、私のことを溺愛しすぎ

第5話 結婚の約束!?

 いきなりのカミングアウトに、クラスは騒然としている。

「ふ、二人はいったいどういう関係?」
「まさか、もう既に結婚してるとか!?」

 そんなわけないから!
 皆パニックになっているのか、冷静に考えたらおかしいって分かるような事も、平気で言ってる。

 み、皆を落ち着いてー。
 けど騒ぎが大きくなりすぎて、誰も私の話なんて聞いてくれないし、どうすれば……。

「ヤッホー、華恋ー! 一緒にお弁当食べよー!」

 教室がひっちゃかめっちゃかになってる中、突然空気を読まない明るい声が聞こえてきた。
 聞き覚えのあるその声のした方を見ると……か、香織ちゃん!?
 教室の入り口に立っていたのは、香織ちゃんだったの。

 伊織くんと同じく、うちの学校の制服を着ている。
 うちはスカートにするかスラックスにするか選べるんだけど、香織ちゃんはスラックスを選んでいて、ショートカットで凛々しい顔立ちと相まって、イケメン女子って感じ。

 そんな香織ちゃんがやってきたんだもの。
 教室の空気が一瞬で変わっちゃって、みんなの意識が一気に持っていかれる。

「おい、誰だよあの美人さん? 先輩か?」
「格好いい。王子様みたい!」

 あちこちから声が聞こえてくるけど、香織ちゃんはそれを気にすることなく、教室に入ってくる。
 そして真っ直ぐに私の所にくると、伊織くんから引き離して手を取った。

「さあ、行こう華恋」
「えっ? で、でも今、ちょっと取り込み中で」
「そうなの? そういえば何だか、騒がしかったね」

 香織ちゃんはキョロキョロと辺りを見回して、さっきまで私と話してた大場さんに目を止め、何を思ったのかそっと彼女の頬に手を触れた。
 そして……。

「お嬢さん。ぶしつけではございますが、少々彼女をお借りしてもよろしいですか?」

 ぶはっ! なにその芝居掛かったセリフー!
 大場さんの頬を撫でたかと思うと、その手を顎にもってきて、そのままクイッ。
 後は持ち前の長身を活かして上から覗き込むようにして、お願いをしてる。
 こんなこと、普通の人がやってもダダスベリするだけだろう。
 けど香織ちゃんがやると、話は変わってくる。

 甘い声と太陽のような笑みでお願いする様子は、まるで映画のワンシーンみたい。
 天から光がさしてキラキラ輝くエフェクトが掛かっているみたいに見えるよ!

 そしてお願いされた大場さんの顔はみるみる赤くなっていって、最後はボンッて爆発したみたいになった。

「は、はい、どうぞ! どこへなりとも連れて行ってください、お姉様!」
「ありがとう。ふふっ、君はいい子だね」
「こ、光栄の極みでございます!」

 大場さんってば、まるで人が変わったみたいになってる。
 目はすっかりハートになってて、メロメロになっちゃったよ。
 それにしても、さっきの香織ちゃんのお願いの仕方は、いったい何?
 ひょっとして、アメリカではあれが普通なの?

「ね、ねえ伊織くん。今のはいったい?」
「香織の編み出したお願い方法。アレをやられたら、女子はほぼまちがいなく落ちる。向こうで日本語を忘れないように観てた、日本の演劇を参考にしたものらしい。女性だけの、何とか歌劇団ってやつ」

 ああ、あれかあ。
 伊織くんが言ってるのは兵庫県宝塚市を拠点にしてる、あのきらびやかな歌劇団のことだろう。
 香織ちゃんってば背が高いし格好いいから、よーく似合ってるよ。

 一瞬で虜にされた大場さんは、魂が抜けちゃったみたいになったけど、力を振り絞るようにパクパクと口を動かす。

「あ、あの。もしかしてアナタは噂の、草薙伊織くんの、お姉様でしょうか?」
「おや、私の事をご存知とは光栄だね。君の言う通り、私の名前は草薙香織。伊織のお姉ちゃんだよ」
「やっぱり。で、でも桜井さんを連れて行くなんて。お、お二人はいったい、どういう関係なんですか!?」
「どういう? そうだねえ、言うならば……将来を誓い合った仲、かな」
「¥℃♂≧$★¢£──っ!?」

 ふぎゃああああっ! か、香織ちゃんなに言ってるのー!?

 ああ、大場さんが声にならない声を上げて倒れて、教室中が阿鼻叫喚の嵐になってる!
 だけど香織ちゃんは、そんな事は全く気にしてない。

「さあ華恋、行こうか」
「こ、この状況を放っておくの!?」
「うん。早くしないと、昼休み終わっちゃうじゃないか」
「それはそうだけど……でも行くなら、伊織くんも一緒に」
「むう、本当は二人きりがいいんだけど、仕方ない。伊織、アンタも来ていいよ」

 そんなわけで、悲鳴が飛び交う教室から三人して出ていく。
 本当にこれで良かったのかなあ? けどまあ、あのまま教室に残っていたら、今度は何が起こるかわからないか。

 それにしても香織ちゃん。将来を誓い合ったなんて、そんな……。

「ん、どうしたの華恋。私の顔に何かついてる?」
「ね、ねえ香織ちゃん。さっき言ってた、将来を誓い合った仲っていうのは何なの?」

 廊下の真ん中で立ち止まって尋ねると、香織ちゃんも、それに伊織くんも足を止める。

「何言ってるの、忘れちゃった? 昔私達がアメリカに行く前に、約束したじゃない」
「や、約束?」

 いつの話だっけ?
 えーと、確か最後に会った時はサヨナラするのが悲しくて三人とも涙ぐんでて。
 絶対にまた会おうって約束したのは覚えてるけど。
 あれ、ちょっと待って。
 そういえばその後、他にも何か話してたような……。

 必死になって記憶の奥を探っていくと、だんだんとあの時の光景が思い出されてくる。
 当時香織ちゃんと伊織くんが住んでいたお家の前に三人で集まってて、たしか香織ちゃんが……。

 ──ねえ華恋。もしもまた会えたら、その時は結婚しよう。

 私をギュって抱き締めながら、プロポーズをしてきた香織ちゃん。
 私も香織ちゃんも女の子だけど、そんなことは関係ない。あの時の香織ちゃんの目は、本気だった。
 けど、するとすかさず伊織くんが。

 ──香織ズルい。華恋は、俺と結婚するんだ。

 そう言って私を、香織ちゃんから引きはがす。
 香織ちゃんは怒った顔をしたけど、最後にケンカなんてさせたくなかった私は、二人の手を握って言ったの。

 ──香織ちゃんも伊織くんも、ケンカしないで。だったら、三人で結婚しよう!

 ……それは幼い日の、子供同士の口約束。
 だけどあの時私は確かに、いつまでも一緒がいい。
 大きくなったら三人で結婚しようって、本気で思っていたんだけど……。

 ふ、ふぎゃああああああっ!?

 思い出した! 
 完全に思い出しちゃったよ!

 さっきの大場さんがなったのと同じように、今度は私の中の何かが爆発して、へなへなと廊下に座り込む。

 し、してたよ約束ー! 
 でも、け、けけけけけ、結婚なんて、そんな大胆な。
 幼稚園の頃の私、何やってるのぉぉぉぉっ!

「お、その様子だと思い出したみたいだね。結婚の約束」
「う、うん……でも結婚なんて、そんな……」

 冗談だよね。あんな小さい頃の約束なんて。
 いや、さっき教室での、将来を誓い合った発言。
 あの時の香織ちゃんの目は、約束を交わした時と同じ目をしていた。
 ほ、本気だ。
 香織ちゃんは本気で、あの時の約束を果たすつもりなんだ。

 そして、気になることがもう一つ。
 思い出した記憶の中では香織ちゃんだけじゃなく、伊織くんも結婚しようって言ってたんだけど……。

 恐る恐る伊織くんに目を向けると、さすが姉弟。
 香織ちゃんと同じ目をして、私を見てる。

「俺も同じ気持ちだから。これだけは、香織にだって負けてない。華恋は俺の、大切な人だから」

 い、伊織くんまで。嘘でしょ!?

 そ、そりゃあ私だって、二人の事は大好きだし。
 うちに来てくれて嬉しいって思ってるよ。

 けど結婚!? 
 いきなりそんな事言われても、受け止めきれないよー!

 次々と明かされる事実。衝撃の連続に、私は口から魂が抜け出そうになるのだった。


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