我が家の二人の王子様は、私のことを溺愛しすぎ

第6話 広まるウワサ

 今日はいい天気。
 今は中庭のベンチに腰掛けながらお弁当を食べているけど、温かなお日さまの光が気持ちいい……はずなんだけど。

「ほら華恋、食べさせてあげるからあーんして」
「い、いいよ香織ちゃん。自分で食べれるから」
「そうだぞ香織。そんなことしたら華恋が迷惑するだろ」
「い、伊織くんも、そんなに引っ張らなくていいから!」

 日差しの心地よさなんて、とても感じてる余裕はなかった。

 何だろう、この状況?
 香織ちゃんはおかずの玉子焼きをあーんで食べさせようとしてきて、伊織くんはそんな香織ちゃんから私を引き剥がすように抱き寄せる。

 お、おかしい。
 三人でゆっくりお昼を食べるだけのはずだったのに、今は緊張で汗が出てきそうだよ。

「むう、伊織ばっかり華恋を独占しててズルい! 伊織は教室でベッタリできるんだから、昼休みくらい私に譲ってくれてもいいじゃん」
「普段家では、香織の方が独占してるだろ。つーか俺は、教室でもベッタリなんてしてない」
「ええー、信じられない。私なら家でも教室でも、華恋のこと可愛がってあげるのに。ねえ華恋、こんな冷たい伊織なんかやめて、私を選んでよ」

 さっきとは逆に、今度は香織ちゃんが私を伊織くんから引き剥がすと、ムギュって抱き締めてくる。
 ああ、香織ちゃんって柔らかくてとってもいい匂いがして、このまま身を委ねたくなっちゃう……って、そうじゃなくて!

「ス、ストーップ! い、いったん落ち着かせて。だいたい伊織くんじゃなく香織ちゃんにするって、何の話!?」
「決まってるじゃない。伊織と私、どっちと結婚するかって話」
「──っ!?」

 ああ、そうじゃないかって気はしてたけど、やっぱりそういうことなんだね。
 で、でも結婚って。

「ほ、本気なの? あれは小さい頃、よく考えずに言っただけで……」
「え、華恋は私のこと、好きじゃなくなっちゃったの?」

 途端に悲しそうな顔になる香織ちゃん。い、いや、好きじゃなくなったと言うか……。

「ああ……私はこの6年、華恋のことを想わなかった日は1日たりともなかったのに、まさか嫌われていたなんて。悲しすぎて、胸が張り裂けそうだ!」

 苦しそうに胸を押さえながら、まるで演劇のワンシーンのように芝居がかった台詞を言ってる。
 そう言われると、私の胸もチクチク痛むけど……そ、そうだ!

「ち、違う。嫌ってなんかいないから! そうじゃなくてね、あの時は三人で結婚しようって言ってたじゃない。で、でもよく考えたらそれって、良くないと思うんだ。だって日本の法律では、二人と結婚なんてできないじゃない。だからあの約束は、無効になっちゃうんだよ」

 こんなに想ってもらえてたのは、素直に嬉しい。
 けど今まで忘れていたのにいきなり結婚なんて言われても、受け止め切れないもの。
 だからあの話は、無しにしてくれたら助かるんだけど……。

「うん、私も重婚は、さすがにマズイと思うよ。ねえ伊織」
「ああ。俺と香織だけの問題ならまだいいけど、そのせいで華恋に迷惑を掛けたくはないからな。その点では香織とも意見は一致してる」
「だ・か・ら、私達日本に来る前に考えたの。どっちと結婚するか華恋に選んでもらって、選ばれなかった方は潔く身を引こうって」
「ええっ!?」

 私の知らないところでそんな取り決めが!?
 しかもこの様子だと香織ちゃんだけでなく、伊織くんまでやる気満々みたいなんだけど!

「本当は女性同士の結婚も、認められてないんだけどな」
「それは現時点の話でしょ。私達が大人になった時は、どうなってるか分からないじゃない。大丈夫、いざとなったら私が国会議員になって、法律を変えるから」

 さらっと言ってるけど、香織ちゃんなら本当にやりそうで怖い。
 わ、私はいったい、どうすればいいの?

「それで、華恋は私と伊織、どっちを選ぶの?」
「変に気を使わず、ハッキリ言ってくれていいから」

 伊織くんまでグイグイきてるけど、そんなすぐに答えられないよー!

 結局答えは保留ということで二人とも納得してくれたけど、この調子じゃいつまた聞かれるかわからない。
 やっぱり、ちゃんと考えた方がいいのかなあ?

 小さい頃は、三人で仲良くいられたらそれでいいって思っていたけど、どうやらそうも言ってられなくなっちゃったみたい。
 二人と再会できたのは嬉しいけど、とんでもないことになっちゃったよ~!


 ◇◆◇◆



 昼休みが終わって、香織ちゃんは自分の教室に帰って行ったけど、結婚の話は誰にも言わないよう口止めしておいた。

 だって同居してるってバレただけでも大変な騒ぎになっちゃったんだもの。
 その上結婚の約束なんてしてるってなったら、どうなるか分からないよ。

 学校のみんなもそうだけど、できればお父さんやお母さんにだって知られたくない。
 だからこの事は、三人だけの秘密にしておきたかったんだけど……。

 5時間目の授業は体育。男子と女子に別れて、女子は体育館でバレーをすることになったんだけど、そんな中大場さんが。

「さ、桜井さん! アナタ、香織お姉様や草薙くんと婚約してるって、本当なの!?」

 ぶはっ!
 準備運動のランニングをしている最中にそんなことを聞かれた私は、思わずむせ返った。
 こ、婚約って、そんな話どこから?

 そしたら真奈ちゃんまでやってきて、キラキラと目を輝かせる。

「その話、私も詳しく聞きたい! 噂では、伊織くんや香織先輩と結婚の約束をしてるって聞いたけど」
「そんな!? 桜井さん、アナタは知らないかもしれないけど、重婚は犯罪なんだから!」

 いや、それくらい知ってるって。
 それより私は、どうして真奈ちゃんや大場さんが結婚の話を知ってるかの方が気になるんだけど?

 だけど尋ねてみると、どうやらさっきの中庭での会話を誰かが聞いてたようで、それが昼休みの間に瞬く間に広まったみたい。
 噂が広まるの早すぎ! 
 せっかく口止めしたのに、これじゃあ意味なかったよー!

 そしていつの間にやら私の周りにはクラス中の女子達が集まっていて、結局洗いざらい全部話すしかなくなっちゃった。

 二人とは幼馴染みだってこと。
 家の都合で、今はうちで暮らしていること。
 そして昔……け、結婚の約束をしていたことを、全部。

 一言話す度にキャーキャーと歓声が上がって、大場さんなんて最後の方は、白目むいて倒れそうになっていた。

「結婚……香織お姉様と結婚って……」
「お、大場さんしっかりして! ただの子供の口約束だから。ほら、幼稚園くらいの時って、深く考えずにそういう事言ったりするじゃない」
「まあそれもそう……ううん、あの時の香織お姉様の目は本気だった! お姉様は約束については、なんて言ってるの!」
「それは……伊織くんと香織ちゃん、どっちか選んでって……」

 言ってて恥ずかしくて、ゆでダコになっちゃいそう。
 でも話さないことには、みんなが解放してくれそうにない。

「なるほど……なら桜井さんが草薙くんを選べば、香織お姉様はフリーに……ああ、でもそれだと、お姉様がふられる事になる。私はどっちを応援すればいいの!?」

 頭を抱える大場さん。
 さっきまでは伊織くんに興味津々だったのに、すっかり香織ちゃんにメロメロになっちゃったみたい。

 その気持ち分かるよ。
 香織ちゃん格好いいから、同性でも惹かれちゃうもの。
 すると他の子達も。

「私なら伊織くんかな。クールで格好いいもの」
「あたしは断然、香織先輩派ー」

 みんな他人事だと思って好き勝手言ってるけど、私はまだどっちを選ぶなんて段階じゃない。
 まだ現実を、受け止めきれてもいないから!

 もうランニングなんてそっちのけで話していたけど、よく考えたら今は授業中。
 さすがに体育の先生が注意してくる。

「こらお前らー、喋ってないでさっさと走れー!」
「うっさい! こっちはそれどころじゃないの!」
「桜井さんの将来が掛かってるんだからね!」

 ああ、先生ってば何も悪くないのに、罵声を浴びせられて小さくなってる。
 それでもその後なんとか授業は再開されたんだけど、順番にサーブの練習をする中、真奈ちゃんが聞いてきた。

「ねえねえ。さっきの話だけど本当のところ、華恋はどっちが好きなの?」
「真奈ちゃんまで……そんなこと言われても、二人のことそんな風に考えたことなかったんだもの。伊織くん香織ちゃんも友達だから、ずっと一緒にいたいって、思ってただけなんだから」
「うんうん、華恋らしいねえ。けど、今はもう違うでしょ。二人からプロポーズされたみたいなもんなんだから、もう意識しはじめてるんじゃないの?」
「それは……」

 思わず黙っちゃったけど、正直言うと真奈ちゃんの言ってることは図星だよ。
 さっきプロポーズみたいな告白をされてから、ずっと心臓がドキドキ言ってるもの。

 でももしかしたら本当はもっと前から、空港で再会した時から、既に昔とは違っていたのかもしれない。
 だって二人とも、すっごく格好よくなっていたんだもの。

 それでも極力以前と同じように接して、香織ちゃんとは一緒にお風呂に入ったり寝たりもしたけど、心のどこかで以前とは違うって、どこかで感じていたような気がする。
 けど、いきなり好きだなんて言われても……。

「二人の気持ちはすごく嬉しいけど、私じゃ釣り合わないよ。私は香織ちゃんや伊織くんみたいに格好よくないし、可愛くもないもん」
「何言ってるの。華恋は十分可愛いじゃん」
「そんなことないよ。二人とも昔の約束を律儀に守ろうとしてるけど、もっと相応しい、素敵な人がいるはずだもの。なのに私が足枷みたいになっちゃったら、申し訳ないよ」
「もう、どうしてアンタはそう、自己評価が低いのかなあ。けど、草薙くんや香織先輩のことを、思って言ってるんだよね。たぶんだけど、二人とも華恋のそういう友達思いな所を、好きになったんじゃないかなあ?」

 そう言われても、自分ではよくわからないや。

「まあ、大事なのは華恋の気持ちだけど……華恋は、好きなタイプとかないの?」
「タイプって言われても。誰かと付き合うなんて、考えたこともなかったし。誰かをそんな風に好きになるなんて、よく分からないや」
「つまり初恋もまだってこと? 相変わらずピュアなんだから。けどそんな所が可愛いんだよねー。もしも草薙くん達がいなかったら、私が華恋の恋人に立候補してたよー」
「ええっ!?」

 真奈ちゃんの爆弾発言に、目を丸くする。
 お願い、以上話を複雑にしないで。
 完全にキャパオーバーだからー!

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