我が家の二人の王子様は、私のことを溺愛しすぎ

第9話 楽しい体育祭

 香織ちゃんと伊織くんがうちに来てから、1ヶ月が過ぎて。
 二人とも、日本での生活にもすっかり慣れたみたい。
 そして学校では、噂の美男美女姉弟として、一番の有名人になっちゃってる。
 そして有名になったのは、格好いいだけが理由じゃない。

 まずは伊織くん。
 転校してきたばかりなのに、なんとこの前あった中間テストで、学年1位を取っちゃったの!

 そんなに頭良いなんて一度も聞いてなかったし、テスト前に調子を聞いた時も、「まあまあかな」って言ってただけだったのに。
「分からない所があったら教えてあげるね」なんて言ってた自分が、恥ずかしいよ。

 そして香織ちゃんは、少し前に女子バスケ部の試合に助っ人として参加したんだけど。
 一人で何点も決める大活躍。
 聞けば向こうではバスケットボールのチームに入っていたこともあって、すっごく上手なんだって。
 しかもバスケだけじゃなくて球技全般が得意だし、足も早いから、色んなスポーツ部から引っ張りだこ。
 入部しなくてもいいから大事な試合の時は力を貸してって、言われてるみたい。
 ついにはファンクラブまでできて、うちのクラスでは大場さんが入っていた。

 改めて思うけど、私って本当、凄い姉弟と幼馴染みなんだなあ。

 そして今日は、うちの中学の体育祭の日。
 全校生徒は体操服に着替えてグラウンドに出て、朝から様々な競技が行われているけど、ここでも香織ちゃんが活躍を見せてくれていた。

「キャー、香織先輩素敵ー!」
「さすがお姉様ー!」

 大場さんをはじめ、歓声を上げるファンクラブの面々。
 たった今50メートル走を走ったんだけど、香織ちゃんはぶっちぎりの1位。
 走者の中には3年生の陸上部もいたのに、大きく差をつけて勝っちゃって。
 私はその様子を、伊織くんや真奈ちゃんと一緒に見ていた。

「さすが香織ちゃん、やっぱり早いねえ」
「ああ。アイツは昔から、運動得意だからなあ」

 淡々と答える伊織くん。
 香織ちゃんは朝からいくつもの競技に出てるけど、全部1位を取ってるの。
 生憎私達とは別チームだから、うちのチームはその度に点差をつけられちゃっているんだけど、香織ちゃんの活躍にはチーム関係無しに、たくさんの人が魅力されていた。

「あーあ。私ももっと、活躍できたら良かったんだけどなあ」
「何言ってるの、華恋だって頑張ってるじゃん。さっきの障害物競争」

 ニマニマ笑いながら言ってくる真奈ちゃん。
 出場した障害物競争で、平均台をふらつきながら渡る姿が可愛いって言ってくれたんだけど、体育祭の競技に、可愛いって関係あるのかな?
 結果は、4人中3位だったし。
 実を言うと、運動は苦手なんだよね。

「せめて香織ちゃんの半分でいいから、運動神経欲しいよ」
「香織と比べなくてもいいんじゃないか。アイツは別格なんだし」
「そんなこと言って、伊織くんだって運動得意じゃない」

 私にしてみれば伊織くんも、羨ましいくらい運動神経抜群なのに。
 だけど……。

「俺なんて香織に比べたら、そこそこできるって程度だから。ずっと近くで見せられてるんだ。よく分かってるよ」

 ニコリともしないで答える伊織くん。

 伊織くんも運動は得意な方なんだけど、香織ちゃんと比べるとどうしても差が浮き彫りになって、本人はそれがコンプレックスみたいなの。
 例えるなら伊織くんは、学校の部活でレギュラーを取れるレベル。
 対して香織ちゃんは、全国大会で優勝を狙えるレベル。
 私にしてみれば伊織くんだって十分凄いのに、更に優秀な相手がすぐ近くにいるのは、良いことばかりじゃないのかも。
 だけどね。

「私は一生懸命な伊織くん、すっごく格好いいと思うよ。この後、男女混合リレーにも出るよね。私、応援するから」
「……ありがとう」

 伊織くんは照れてるのか、顔を反らして明後日の方向を見る。

「ふふふ、仲の良いこと。ねえ、やっぱり華恋の本命って、伊織くんの方なの?」
「ま、真奈ちゃん!?」

 伊織くんには聞こえないよう小声で囁かれたけど、私はカッと顔を赤くする。
 も、もぅ~、意識させるようなこと言わないでよ~。

 ショーゲキの結婚の約束の話が出てから数週間。
 二人が未だにあの約束のことを大事にしてるって知った時はビックリしたけど、あの日以降驚くくらい、大きな動きはない。

 そりゃあ香織ちゃんは毎日のように大好き、可愛いって言ってスキンシップを取ってくるし、伊織くんは伊織くんで宿題で分からない所があったら教えてくれたり、休みの日はクッキーを焼いて食べさせてくれたりと優しくしてくれてるけど。
 二人とも決して、答えを急がせるような事はしないの。

 だから私も普段は、深くは考えないようにしてる。
 だって変に意識して態度が変になったら、二人にも申し訳ないしね。
 ただ前に伊織くんが、「友達にしては距離感がバグッてる」って言ってたけど。
 どういうことだろう?

 そんな事を話してるうちに、次の競技が始まる。
 今度の競技は、借り物競争。
 私も伊織くんも真奈ちゃんも出ないけど、香織ちゃんはまたしても出場してる。
 いったいどれだけ出場するんだろう?

 けどいくら香織ちゃんでもこれは、一概に有利とは言えないかも。
 だって指示された物を借りてくる借り物競争。
 もしも難しい借り物を引いちゃったら、探すのに時間掛かっちゃうもの。

 そうしているうちに香織ちゃんの番が来て、コースの真ん中辺りに置かれているカードの所に、一番に到着する。
 さすがに走るだけなら、ぶっちぎりだね。

 だけどこの競技で大事なのはここから。
 カードに書かれているお題次第では、途端に難しくなっちゃうもの。
 カードを見た香織ちゃんはキョロキョロと辺りを見回していたけど……あ、何だかこっちを見てる。

 するとどうしたんだろう? 
 目が合ったかと思うと、全速力でこっちに向かって駆けてくる。
 そして……。

「華恋お願い、一緒に来て!」
「え? わ、私?」

 やってきた香織ちゃんが、手を合わせて懇願してきたけど、いったいどんなお題だったの?
 すると香織ちゃんは、手にしたカードを見せてきたけど、そこに書いてあったのは……え、『可愛いもの』?

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