偽りの恋人~俺と幼馴染は付き合っているフリをしている~
13 男同士のお出かけ
やってきた週末。どうせ男同士のお出かけだし、と俺はラフな黒いパーカーを羽織って外に出た。ショッピングモールまでは、高校と反対側の駅に行く必要がある。俺たちはその駅前で待ち合わせていた。
「やべっ、この電車じゃちょっと遅れるな」
俺はグループラインに十分ほど遅れるとメッセージを打った。どうやら拓磨はすでに到着しているらしく、のんびり待ってるよと返信が来た。香澄と落ち合ったのは時間丁度だったらしく、合流したよとのラインも続いて届いた。
「いやぁ、悪い」
「もう、達矢ったら。男同士だからって気ぃ抜いてる?」
ピンク色のシャツに白いショートパンツを履いた香澄がぷりぷりと怒った。
「まあ、いいだろ、十分くらい」
拓磨はグレーのスウェットにデニムというスポーティーな恰好だった。白と黒のコントラストがハッキリしたキャップも被っていた。
「じゃあ、アクセサリー屋さんに行きますか!」
香澄が天に向かって大きく右腕を突き出した。彼に着いて、俺たちは店に向かった。
「ほら、これ、ジルコニア。ダイヤの代わりの石としてよく売られてるんだよ」
「へえ、さすが香澄、詳しいな。値段も手頃だな」
「でしょう?」
あれこれ見て回った挙句、俺は一粒のジルコニアがついた銀色のネックレスを購入した。これなら、大人っぽいデザインだし、どんな服装にもよく合うことだろう。まあ、安奈なら、どんなアクセサリーでも自在に身に着けてしまえるのだろうが。
「昼飯どうする? 今月は小遣いヤバいし、あんまり高いのは避けたいんだけど」
俺が言うと、香澄がちっちっと指を振った。
「ご心配なく。友達と遊びに行くって言ったらお金くれたから、ボクが奢るよ」
「マジで? いくら貰ったの?」
「一万円」
「うわっ、太っ腹だな!」
「香澄の家はいつもそうだよ。達矢も気にせず奢られるといいさ」
そこで俺たちは、ショッピングモールの中にある食べ放題の焼肉屋へ向かった。
「いえーい! 食べ放題っていいよねー!」
オレンジジュースの入ったジョッキを高く掲げながら、香澄が叫んだ。
「まあ、オレけっこう米食べるし、食べ放題の中にご飯が入っているのは有難い」
「じゃあライスは大?」
「もちろん」
肉を焼くのは拓磨の役目になった。香澄も拓磨に任せるのに慣れているようで、俺も遠慮なく取り分けられた肉をご馳走になった。
「やっぱり牛タンは外せないよね」
はぐはぐと肉を噛み締めながら、幸せそうに香澄は言った。
「俺はホルモンが好きだな」
「それは最後の方に焼くから、楽しみに待ってろよ」
拓磨も機嫌よくトングで肉を裏返していた。はあ、いいなあ。こういう男だけの集まり。中学のときも、それなりに友人付き合いはあったが、安奈と付き合っているフリを始めた途端、遠慮されたのか誘いが少なくなってしまったのだ。
「俺、拓磨と香澄と友達になれて良かったわ」
「なーに、しんみりしちゃって。高校生活はまだ始まったばっかりだよ?」
香澄が白い歯を見せて笑うので、俺もつられて笑った。そうだ、まだ高校一年の四月なのだ。芹香との距離はまるで縮まっていないが、もうじき図書委員の当番がやってくる。そのうち、二人だけでカウンターに座る日もやってくるだろう。そうすれば、会話のチャンスも増える。
「お前ら、野菜も食べろよ。ほら、タマネギ」
「やだー! 拓磨、ボクがタマネギ嫌いって知ってるじゃない!」
「だからちょびっとだけにしてるだろう?」
そんなやり取りも、微笑ましいものだ。俺はこれから始まる行事にも期待を寄せていた。体育祭に文化祭、校外学習。こいつらだけでなく、他の男子たちとも友達になりたいな。クラスの半分以上はまだ、顔と名前が一致していない。機会があれば、どんどん話しかけに行こう。そんなことを考えながら、分厚いカルビを味わっていた。
「達矢は苦手なものとかないのか?」
拓磨が聞いてきた。
「辛すぎるものはあんまり。でも、これといって苦手な食材とかは無いな」
「ほら、香澄。達矢を見習えよ」
「やだー。シイタケも拓磨が食べてよね?」
それから、香澄の食べられない食べ物の話になった。ほとんどの野菜はダメで、唯一好きなのはピーマンらしい。チンジャオロースは好きで食べるのだとか。例の家政婦さんにも、よく作ってもらうらしい。
「はぁ、食った食った」
空っぽの網と皿、満たされた腹。俺たちは締めのアイスクリームを食べながら、のんびりとしていた。すると、パーカーのポケットに入れていた俺のスマホが振動した。
「なんだ?」
見ると、千歳ちゃんからのラインだった。
『今日、美容院に行ってきたよ! 月曜日はびっくりするかも!』
そうか、おそらく染めたんだな。俺は適当な返信をした。
『楽しみにしてる』
既読はすぐにつき、赤面している白い犬のスタンプが送られてきた。それきり、動きは無いようだったので、俺はスマホをポケットにしまった。
安奈の誕生日プレゼントという目的は達成したし、満腹になれたので、俺たちは焼肉屋を出ると今日はもう解散することにした。いやあ、いい週末だ。
「やべっ、この電車じゃちょっと遅れるな」
俺はグループラインに十分ほど遅れるとメッセージを打った。どうやら拓磨はすでに到着しているらしく、のんびり待ってるよと返信が来た。香澄と落ち合ったのは時間丁度だったらしく、合流したよとのラインも続いて届いた。
「いやぁ、悪い」
「もう、達矢ったら。男同士だからって気ぃ抜いてる?」
ピンク色のシャツに白いショートパンツを履いた香澄がぷりぷりと怒った。
「まあ、いいだろ、十分くらい」
拓磨はグレーのスウェットにデニムというスポーティーな恰好だった。白と黒のコントラストがハッキリしたキャップも被っていた。
「じゃあ、アクセサリー屋さんに行きますか!」
香澄が天に向かって大きく右腕を突き出した。彼に着いて、俺たちは店に向かった。
「ほら、これ、ジルコニア。ダイヤの代わりの石としてよく売られてるんだよ」
「へえ、さすが香澄、詳しいな。値段も手頃だな」
「でしょう?」
あれこれ見て回った挙句、俺は一粒のジルコニアがついた銀色のネックレスを購入した。これなら、大人っぽいデザインだし、どんな服装にもよく合うことだろう。まあ、安奈なら、どんなアクセサリーでも自在に身に着けてしまえるのだろうが。
「昼飯どうする? 今月は小遣いヤバいし、あんまり高いのは避けたいんだけど」
俺が言うと、香澄がちっちっと指を振った。
「ご心配なく。友達と遊びに行くって言ったらお金くれたから、ボクが奢るよ」
「マジで? いくら貰ったの?」
「一万円」
「うわっ、太っ腹だな!」
「香澄の家はいつもそうだよ。達矢も気にせず奢られるといいさ」
そこで俺たちは、ショッピングモールの中にある食べ放題の焼肉屋へ向かった。
「いえーい! 食べ放題っていいよねー!」
オレンジジュースの入ったジョッキを高く掲げながら、香澄が叫んだ。
「まあ、オレけっこう米食べるし、食べ放題の中にご飯が入っているのは有難い」
「じゃあライスは大?」
「もちろん」
肉を焼くのは拓磨の役目になった。香澄も拓磨に任せるのに慣れているようで、俺も遠慮なく取り分けられた肉をご馳走になった。
「やっぱり牛タンは外せないよね」
はぐはぐと肉を噛み締めながら、幸せそうに香澄は言った。
「俺はホルモンが好きだな」
「それは最後の方に焼くから、楽しみに待ってろよ」
拓磨も機嫌よくトングで肉を裏返していた。はあ、いいなあ。こういう男だけの集まり。中学のときも、それなりに友人付き合いはあったが、安奈と付き合っているフリを始めた途端、遠慮されたのか誘いが少なくなってしまったのだ。
「俺、拓磨と香澄と友達になれて良かったわ」
「なーに、しんみりしちゃって。高校生活はまだ始まったばっかりだよ?」
香澄が白い歯を見せて笑うので、俺もつられて笑った。そうだ、まだ高校一年の四月なのだ。芹香との距離はまるで縮まっていないが、もうじき図書委員の当番がやってくる。そのうち、二人だけでカウンターに座る日もやってくるだろう。そうすれば、会話のチャンスも増える。
「お前ら、野菜も食べろよ。ほら、タマネギ」
「やだー! 拓磨、ボクがタマネギ嫌いって知ってるじゃない!」
「だからちょびっとだけにしてるだろう?」
そんなやり取りも、微笑ましいものだ。俺はこれから始まる行事にも期待を寄せていた。体育祭に文化祭、校外学習。こいつらだけでなく、他の男子たちとも友達になりたいな。クラスの半分以上はまだ、顔と名前が一致していない。機会があれば、どんどん話しかけに行こう。そんなことを考えながら、分厚いカルビを味わっていた。
「達矢は苦手なものとかないのか?」
拓磨が聞いてきた。
「辛すぎるものはあんまり。でも、これといって苦手な食材とかは無いな」
「ほら、香澄。達矢を見習えよ」
「やだー。シイタケも拓磨が食べてよね?」
それから、香澄の食べられない食べ物の話になった。ほとんどの野菜はダメで、唯一好きなのはピーマンらしい。チンジャオロースは好きで食べるのだとか。例の家政婦さんにも、よく作ってもらうらしい。
「はぁ、食った食った」
空っぽの網と皿、満たされた腹。俺たちは締めのアイスクリームを食べながら、のんびりとしていた。すると、パーカーのポケットに入れていた俺のスマホが振動した。
「なんだ?」
見ると、千歳ちゃんからのラインだった。
『今日、美容院に行ってきたよ! 月曜日はびっくりするかも!』
そうか、おそらく染めたんだな。俺は適当な返信をした。
『楽しみにしてる』
既読はすぐにつき、赤面している白い犬のスタンプが送られてきた。それきり、動きは無いようだったので、俺はスマホをポケットにしまった。
安奈の誕生日プレゼントという目的は達成したし、満腹になれたので、俺たちは焼肉屋を出ると今日はもう解散することにした。いやあ、いい週末だ。