偽りの恋人~俺と幼馴染は付き合っているフリをしている~
14 週始め
安奈に宣言した通り、日曜日は家でゴロゴロしていた。いや、それだけではない。芹香に勧められた小説を少しだけ読んでみたのだ。最初の数行ですでに眠くなってしまったが、我慢して二十二ページまでは読み進めた。
あくる日の月曜日。安奈と合流した俺は、千歳ちゃんの話を振った。
「千歳ちゃん、髪染めたんだってな」
「そうなの?」
「ん? 俺には美容院に行ったってライン来たぞ?」
「わたしは来てない。そっかー、染めたんだ」
千歳ちゃんのことが気になった俺は、一旦荷物を自分の席に置いて、二組の教室へ向かってみた。
「あっ! 達矢くん、おはよう!」
「おおっ、茶髪になってる! しかもパーマもあてた?」
「うん、少しね」
元々の素材が良いのだろう。千歳ちゃんは、栗色の髪になっても可愛らしかった。むしろ、垢ぬけた印象もある。ふと、俺は思いついて、安奈を千歳ちゃんの横に立たせた。
「なんだか二人、双子みたいだな!」
そう、色も長さも形も、二人の髪型はそっくりだったのである。少し身長差があるので、双子とはいえ安奈が姉で千歳ちゃんが妹に俺は思えた。
「えへへ、双子だって、安奈ちゃん!」
「なんだか嬉しいね!」
二人が手を取り合って盛り上がっていると、優太が登校してきた。
「うわっ、松浜、髪染めたのかよ」
「春日には関係ないでしょ」
「おれは前の方が良かったなー」
「そりゃああんたの好みは呉川さんだもんね?」
優太と千歳ちゃんの絡み方を見た俺は、安奈に聞いた。
「二人って元々知ってる仲って感じ?」
「うん、優太くんと千歳ちゃんは同じ中学だよ」
それでか。納得がいった。
「まあ、おれは芹香が金髪にしようと坊主にしようと変わらず大好きだけどな!」
「はいはい」
千歳ちゃんは呆れていた。優太は中学の時からこういうタイプだったのだろうか。
「あっ、おれまだ今朝の芹香見てない! 一組行ってくる!」
「おい、じゃあ俺も戻るわ。またな、安奈、千歳ちゃん」
優太と一緒に一組の教室に入ると、芹香は相変わらず長い髪をおろし、文庫本に没頭していた。しかし、視界の端に金髪が入ったのだろう。もはやお馴染みとなった舌打ちをした。
「おはよう! 芹香、今日も可愛いな!」
「うん」
文庫本から目を離さないまま、芹香は答えた。
「芹香、おはよう」
俺が挨拶をすると、今度は顔を上げてくれた。
「おはよう、達矢」
「ちょっとー! 何さその態度の違い!」
「優太、うるさい。ハウス」
もうじきホームルームの時間だった。優太は犬のように従順に二組へと帰って行った。
「あっ、芹香。本、ちょっとだけ読んだよ」
「どこまで?」
「動物を買いたいってとこまで」
「序盤も序盤じゃない……どんだけ読むの遅いの?」
ぐうの音も出なかった。元々読書は得意では無いのだ。こうなったら、朝早く起きて読書の時間でも作るか? それなら、毎日進捗を報告する会話ができる。いや、それでなくても今日は図書当番の説明があるのだ。放課後、芹香と一緒に過ごせる。だからとりあえず、今はここまでにしておこう。俺は自分の席に戻った。
今日は四時間目に美術の授業があった。まずはクロッキー帳に石膏像のスケッチだ。こういう作業が俺は苦手だ。絵心というものがまるで無い。
「うわっ、香澄上手いな?」
隣の席に居た香澄のクロッキー帳を見て俺は声をあげた。
「でしょ? ボク、絵は得意なんだ。勉強はダメだけどね」
そういえば、拓磨はどうなんだろうと思ったが、彼は別の石膏像のところに居た。
「達矢はもっと大きく描かなきゃ。まずはそこからだよ」
「うーん、そうなのか」
教師の声がとんだ。
「そこ。私語は慎むように」
「はぁい」
満足できない出来のまま、俺はスケッチをやり終えた。それから、拓磨のクロッキー帳を覗き込みに行くと、俺とそう大差ない出来だった。
「オレも美術とか得意じゃなくてさぁ……」
「でも、勉強はできるから良いじゃない。そういや、達矢は勉強どうなの?」
「うっ」
実は、ミナコ―に行くにはちょっと厳しいとの言葉を中学の担任から貰っていたのだ。レベルを下げることも提案されたが、何とか頑張って合格した。なので、中間テストはおそらくギリギリの出来になるだろうということは今から目に見えていた。
「拓磨ぁ、テスト勉強一緒にしよう? 俺に教えて?」
「達矢、今からそんなこと言ってんの? 普段の授業をちゃんと受けていれば大丈夫だよ」
「拓磨は出来る人だからそう言うけど、ボクなんか寝ずに受けてても意味わかんないもん!」
「いや、香澄、けっこう寝てたぞ……」
そうなのだ。香澄はしょっちゅう船を漕いでいて、叩き起こされることもしばしばあった。睡眠不足は美容の大敵! とか何とか言っており、眠る時間は早いらしいが、なぜ授業になると寝てしまうのか。まあ、俺も気持ちは分かる。週の始めは特に眠くて仕方がない。
しかし、あと二時間を乗り越えたら、芹香との図書当番だ! 俺は放課後が来るのを、今か今かと待っていた。
あくる日の月曜日。安奈と合流した俺は、千歳ちゃんの話を振った。
「千歳ちゃん、髪染めたんだってな」
「そうなの?」
「ん? 俺には美容院に行ったってライン来たぞ?」
「わたしは来てない。そっかー、染めたんだ」
千歳ちゃんのことが気になった俺は、一旦荷物を自分の席に置いて、二組の教室へ向かってみた。
「あっ! 達矢くん、おはよう!」
「おおっ、茶髪になってる! しかもパーマもあてた?」
「うん、少しね」
元々の素材が良いのだろう。千歳ちゃんは、栗色の髪になっても可愛らしかった。むしろ、垢ぬけた印象もある。ふと、俺は思いついて、安奈を千歳ちゃんの横に立たせた。
「なんだか二人、双子みたいだな!」
そう、色も長さも形も、二人の髪型はそっくりだったのである。少し身長差があるので、双子とはいえ安奈が姉で千歳ちゃんが妹に俺は思えた。
「えへへ、双子だって、安奈ちゃん!」
「なんだか嬉しいね!」
二人が手を取り合って盛り上がっていると、優太が登校してきた。
「うわっ、松浜、髪染めたのかよ」
「春日には関係ないでしょ」
「おれは前の方が良かったなー」
「そりゃああんたの好みは呉川さんだもんね?」
優太と千歳ちゃんの絡み方を見た俺は、安奈に聞いた。
「二人って元々知ってる仲って感じ?」
「うん、優太くんと千歳ちゃんは同じ中学だよ」
それでか。納得がいった。
「まあ、おれは芹香が金髪にしようと坊主にしようと変わらず大好きだけどな!」
「はいはい」
千歳ちゃんは呆れていた。優太は中学の時からこういうタイプだったのだろうか。
「あっ、おれまだ今朝の芹香見てない! 一組行ってくる!」
「おい、じゃあ俺も戻るわ。またな、安奈、千歳ちゃん」
優太と一緒に一組の教室に入ると、芹香は相変わらず長い髪をおろし、文庫本に没頭していた。しかし、視界の端に金髪が入ったのだろう。もはやお馴染みとなった舌打ちをした。
「おはよう! 芹香、今日も可愛いな!」
「うん」
文庫本から目を離さないまま、芹香は答えた。
「芹香、おはよう」
俺が挨拶をすると、今度は顔を上げてくれた。
「おはよう、達矢」
「ちょっとー! 何さその態度の違い!」
「優太、うるさい。ハウス」
もうじきホームルームの時間だった。優太は犬のように従順に二組へと帰って行った。
「あっ、芹香。本、ちょっとだけ読んだよ」
「どこまで?」
「動物を買いたいってとこまで」
「序盤も序盤じゃない……どんだけ読むの遅いの?」
ぐうの音も出なかった。元々読書は得意では無いのだ。こうなったら、朝早く起きて読書の時間でも作るか? それなら、毎日進捗を報告する会話ができる。いや、それでなくても今日は図書当番の説明があるのだ。放課後、芹香と一緒に過ごせる。だからとりあえず、今はここまでにしておこう。俺は自分の席に戻った。
今日は四時間目に美術の授業があった。まずはクロッキー帳に石膏像のスケッチだ。こういう作業が俺は苦手だ。絵心というものがまるで無い。
「うわっ、香澄上手いな?」
隣の席に居た香澄のクロッキー帳を見て俺は声をあげた。
「でしょ? ボク、絵は得意なんだ。勉強はダメだけどね」
そういえば、拓磨はどうなんだろうと思ったが、彼は別の石膏像のところに居た。
「達矢はもっと大きく描かなきゃ。まずはそこからだよ」
「うーん、そうなのか」
教師の声がとんだ。
「そこ。私語は慎むように」
「はぁい」
満足できない出来のまま、俺はスケッチをやり終えた。それから、拓磨のクロッキー帳を覗き込みに行くと、俺とそう大差ない出来だった。
「オレも美術とか得意じゃなくてさぁ……」
「でも、勉強はできるから良いじゃない。そういや、達矢は勉強どうなの?」
「うっ」
実は、ミナコ―に行くにはちょっと厳しいとの言葉を中学の担任から貰っていたのだ。レベルを下げることも提案されたが、何とか頑張って合格した。なので、中間テストはおそらくギリギリの出来になるだろうということは今から目に見えていた。
「拓磨ぁ、テスト勉強一緒にしよう? 俺に教えて?」
「達矢、今からそんなこと言ってんの? 普段の授業をちゃんと受けていれば大丈夫だよ」
「拓磨は出来る人だからそう言うけど、ボクなんか寝ずに受けてても意味わかんないもん!」
「いや、香澄、けっこう寝てたぞ……」
そうなのだ。香澄はしょっちゅう船を漕いでいて、叩き起こされることもしばしばあった。睡眠不足は美容の大敵! とか何とか言っており、眠る時間は早いらしいが、なぜ授業になると寝てしまうのか。まあ、俺も気持ちは分かる。週の始めは特に眠くて仕方がない。
しかし、あと二時間を乗り越えたら、芹香との図書当番だ! 俺は放課後が来るのを、今か今かと待っていた。