偽りの恋人~俺と幼馴染は付き合っているフリをしている~
20 デートのお誘い
安奈がネイルをしてもらった翌日の昼休み。優太が俺の席にやってきた。
「優太。なんだか久しぶりだな。芹香なら席が変わって……」
「いや、今日は芹香に会いに来たんじゃないんだ。達矢に用事がある。自販機でも行こうよ」
俺は優太に着いて中庭へ向かった。コーヒーなら、優太が奢ってくれた。何か話でもあるのだろうか。
「あのさ、達矢。お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「おれとデートして!」
「はあっ!?」
思わず大きな声を出してしまった。周りに居た他の生徒たちが不審そうに俺たちを振り返った。俺は落ち着くため、深呼吸をした。
「おれさー、芹香と付き合うためにはどうすればいいか、必死に考えたの。そしたら、すでに彼女が居る達矢のこと見習えばいいんじゃないかって思って」
「あー、そういうことね」
優太は真剣な目をしていた。これは、真摯に向き合ってやる必要があるだろう。
「達矢と一日デートしたら、女の子との付き合い方わかるかもって思ってさ!」
「いや、わからないと思うぞ? 安奈と芹香じゃ、タイプもまるで違うし」
「とにかくさ、週末遊びに行こうよ。それとも安奈ちゃんと予定でもあった?」
「いや、無い……」
流されるまま、俺は優太とラインを交換し、土曜日に水族館に行くことになってしまった。どうしよう、安奈とも二人で行ったことないぞ、そんなデートスポット。しかし、と俺は思い出した。優太が中学生時代は友達と遊びに行くのを禁止されていたということを。それなら、肩の力を抜いて、男同士普通に遊んでやるのがいいんじゃないか。そう思った。
「ありがとうな、達矢! こんな頼み、達矢にしかできないからさー」
「まあ、いいよ。俺だって、優太とはもっと話してみたいと思ってたし」
そう、恋敵としてな! 優太のことを知っていれば、牽制するのに役に立つかもしれない。奴には悪いが、俺は芹香とのこと応援なんてしてやらないぞ。むしろその逆だ。何か弱点を掴んでおいて、ここぞという時に使おう。そう企んでいると、予鈴が鳴った。
「あっ、もう戻らなきゃな。じゃあ、土曜日はよろしくな、達矢!」
「おう!」
席に戻ると、すかさず香澄が聞いてきた。
「ねえ、なんだったの?」
「ああ、優太がな……」
説明してやると、香澄はカラカラと笑い出した。
「優太くんって子、真面目だねぇ?
なんだかボクも応援したくなってきちゃった」
応援者が増えてしまった。そろそろ、俺も何か手を打たないとヤバいか? あの小説をいい加減読んでしまおう。そして、感想を芹香と共有しよう。少しずつ歩み寄れたら、俺にだってチャンスが訪れるかもしれない。
授業が始まり、俺は前に向き直った。三十分ほどすると、横の席の一樹が船をこぎ出したのに気付いた。香澄もだ。昼食後の古典の時間だから、そうしたくなる気持ちはよく分かる。
しかし、古典の先生はけっこう厳しい。俺は先生が板書をしている時を見計らって、一樹を起こした。彼は口パクでありがとうと言った後、香澄の方を振り向いて彼の腕をつついた。しかし、起きなかったのでそのままにした。
「西山。聞いていたか?」
「あっハイ! 聞いていませんでした!」
そう叫んだ香澄に、クラス中がどっと沸いた。
「お前は学級委員なんだろう? しっかり起きていなさい」
「すみませんでした」
すっかり目が冴えた香澄は、ごしごしと目をこすると、慌てて板書を写し始めた。休み時間になり、拓磨が俺たちの席に寄ってきた。
「香澄。さっきのは、ちょっと面白かったぞ」
「酷いなぁ、拓磨。達矢と一樹も起こしてくれたってよかったのに」
「オレは起こしたぞ?」
一樹は苦笑した。それから、運動部の奴らが一樹の周りに集まった。そのついでに、俺も輪に加わった。こうして、話せる男子がどんどん増えていった。うんうん、俺の高校生活、順調。
でも、順調だからこそ、ふとしたときにこわくなる。ただでさえ俺は、安奈と付き合っているという嘘を周囲につき続けている。いつかそのバランスが崩れて、足元をすくわれやしないか不安になる。
嘘をつく。他人のために、つまりは安奈のために嘘をつく。それは悪いことでは無いんだと、そう自分に言い聞かせているのに。
「さて、あとは数学だけか」
休み時間が残り五分を切った頃、拓磨が言った。運動部の奴たちも、散り散りになっていった。放課後の予定は特に決めていない。安奈と真っ直ぐ帰って、今日は小説を読もうか。
数学の授業はしんどかった。俺は理数系の科目が苦手だ。まだ勉強は始まったばかりだというのに、もうつまずいている。ペースも早くて、理解できないまま次の単元に移ってしまった。
ベルが鳴り、ホームルームの時間になった。担任は、最近授業中に寝ている生徒が多いことを指摘した。終わってから、その張本人である香澄は呑気な声を出した。
「はー、終わった終わった」
香澄はぐっと伸びをして、大きな欠伸をした。そのとき、二人連れの女の子たちが一組の教室に入ってきた。安奈と千歳ちゃんだった。
「優太。なんだか久しぶりだな。芹香なら席が変わって……」
「いや、今日は芹香に会いに来たんじゃないんだ。達矢に用事がある。自販機でも行こうよ」
俺は優太に着いて中庭へ向かった。コーヒーなら、優太が奢ってくれた。何か話でもあるのだろうか。
「あのさ、達矢。お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「おれとデートして!」
「はあっ!?」
思わず大きな声を出してしまった。周りに居た他の生徒たちが不審そうに俺たちを振り返った。俺は落ち着くため、深呼吸をした。
「おれさー、芹香と付き合うためにはどうすればいいか、必死に考えたの。そしたら、すでに彼女が居る達矢のこと見習えばいいんじゃないかって思って」
「あー、そういうことね」
優太は真剣な目をしていた。これは、真摯に向き合ってやる必要があるだろう。
「達矢と一日デートしたら、女の子との付き合い方わかるかもって思ってさ!」
「いや、わからないと思うぞ? 安奈と芹香じゃ、タイプもまるで違うし」
「とにかくさ、週末遊びに行こうよ。それとも安奈ちゃんと予定でもあった?」
「いや、無い……」
流されるまま、俺は優太とラインを交換し、土曜日に水族館に行くことになってしまった。どうしよう、安奈とも二人で行ったことないぞ、そんなデートスポット。しかし、と俺は思い出した。優太が中学生時代は友達と遊びに行くのを禁止されていたということを。それなら、肩の力を抜いて、男同士普通に遊んでやるのがいいんじゃないか。そう思った。
「ありがとうな、達矢! こんな頼み、達矢にしかできないからさー」
「まあ、いいよ。俺だって、優太とはもっと話してみたいと思ってたし」
そう、恋敵としてな! 優太のことを知っていれば、牽制するのに役に立つかもしれない。奴には悪いが、俺は芹香とのこと応援なんてしてやらないぞ。むしろその逆だ。何か弱点を掴んでおいて、ここぞという時に使おう。そう企んでいると、予鈴が鳴った。
「あっ、もう戻らなきゃな。じゃあ、土曜日はよろしくな、達矢!」
「おう!」
席に戻ると、すかさず香澄が聞いてきた。
「ねえ、なんだったの?」
「ああ、優太がな……」
説明してやると、香澄はカラカラと笑い出した。
「優太くんって子、真面目だねぇ?
なんだかボクも応援したくなってきちゃった」
応援者が増えてしまった。そろそろ、俺も何か手を打たないとヤバいか? あの小説をいい加減読んでしまおう。そして、感想を芹香と共有しよう。少しずつ歩み寄れたら、俺にだってチャンスが訪れるかもしれない。
授業が始まり、俺は前に向き直った。三十分ほどすると、横の席の一樹が船をこぎ出したのに気付いた。香澄もだ。昼食後の古典の時間だから、そうしたくなる気持ちはよく分かる。
しかし、古典の先生はけっこう厳しい。俺は先生が板書をしている時を見計らって、一樹を起こした。彼は口パクでありがとうと言った後、香澄の方を振り向いて彼の腕をつついた。しかし、起きなかったのでそのままにした。
「西山。聞いていたか?」
「あっハイ! 聞いていませんでした!」
そう叫んだ香澄に、クラス中がどっと沸いた。
「お前は学級委員なんだろう? しっかり起きていなさい」
「すみませんでした」
すっかり目が冴えた香澄は、ごしごしと目をこすると、慌てて板書を写し始めた。休み時間になり、拓磨が俺たちの席に寄ってきた。
「香澄。さっきのは、ちょっと面白かったぞ」
「酷いなぁ、拓磨。達矢と一樹も起こしてくれたってよかったのに」
「オレは起こしたぞ?」
一樹は苦笑した。それから、運動部の奴らが一樹の周りに集まった。そのついでに、俺も輪に加わった。こうして、話せる男子がどんどん増えていった。うんうん、俺の高校生活、順調。
でも、順調だからこそ、ふとしたときにこわくなる。ただでさえ俺は、安奈と付き合っているという嘘を周囲につき続けている。いつかそのバランスが崩れて、足元をすくわれやしないか不安になる。
嘘をつく。他人のために、つまりは安奈のために嘘をつく。それは悪いことでは無いんだと、そう自分に言い聞かせているのに。
「さて、あとは数学だけか」
休み時間が残り五分を切った頃、拓磨が言った。運動部の奴たちも、散り散りになっていった。放課後の予定は特に決めていない。安奈と真っ直ぐ帰って、今日は小説を読もうか。
数学の授業はしんどかった。俺は理数系の科目が苦手だ。まだ勉強は始まったばかりだというのに、もうつまずいている。ペースも早くて、理解できないまま次の単元に移ってしまった。
ベルが鳴り、ホームルームの時間になった。担任は、最近授業中に寝ている生徒が多いことを指摘した。終わってから、その張本人である香澄は呑気な声を出した。
「はー、終わった終わった」
香澄はぐっと伸びをして、大きな欠伸をした。そのとき、二人連れの女の子たちが一組の教室に入ってきた。安奈と千歳ちゃんだった。