偽りの恋人~俺と幼馴染は付き合っているフリをしている~
21 妹のような存在
姉妹のように同じ髪型をした安奈と千歳ちゃんに、まだ残っていたクラスの奴らの視線が降り注いだ。俺は立ち上がって彼女らのところへ行った。
「よう、どうしたんだ? 二人して」
「あのね、千歳ちゃんもネイルして欲しいんだって」
「えへへ、そういうこと」
俺は香澄を振り返った。
「おっ、またまたお客さま? 安奈ちゃんのお友達だよね。ささっ、こっちに来なよー」
昨日のように、千歳ちゃんが一樹の席に座った。俺は自分の席に、安奈は俺の後ろの席に。
「私、松浜千歳っていいます」
「ボクは西山香澄。香澄でいいよ、千歳ちゃん。といっても今日は昨日のやつしか持ってきてないんだけど……」
「ううん、それでいいの。私、安奈ちゃんと同じネイルにしてほしい」
それなら話は早い。香澄はうきうきとネイル道具を取り出し始めた。三回目になるが、俺も見学することにした。千歳ちゃんが言った。
「何だかごめんね? 香澄くんとは初めましてなのに」
「いいってことよ。させてくれる人が多い方が、練習になるし」
もはやネイルサロンと化した一組の教室に、ハンドオイルの匂いが漂った。周りの女子たちも、香澄の方を気にしている。この調子だと、香澄の言う「お客さま」はこれからも現れそうだなと思いながら、彼らの様子を見守っていた。
「あれっ? けっこう形整えてるよね」
「うん。春休みに自分でしてた。でも、フレンチネイルとかは上手くできなくて」
「そっかぁ。じゃあこの香澄さんに任せなさい!」
頼もしい奴だ。二人っきりにさせても問題なさそうだし、と思い、俺は安奈と一緒に購買へお菓子を買いに行くことにした。
「爪まで一緒になったら、ますます姉妹感が増すな」
「だよねぇ。何だかわたし、嬉しくなっちゃった! 妹が居たら、あんな感じなのかなぁって思うよ」
俺も安奈も一人っ子だ。特に安奈は、きょうだいが欲しいと言って親を困らせていた時期があったらしい。俺はきょうだいなんて居ても鬱陶しいだけだろうし、とそんなことをせがむことは無かったが、確かに千歳ちゃんのような可愛い妹が居たら楽しいだろうな、なんて想像した。
クッキーを買った俺たちは、一組の教室に戻った。そう整える必要が無かったせいだろう、安奈のときよりも早く進んでいて、ピンクベージュのマニキュアを塗っているところだった。
「これがベースになりまーす」
「わあっ、これだけでも十分可愛いね?」
千歳ちゃんは嬉しそうにまばたきをした。妹、妹かぁ。俺は彼女に語りかけた。
「俺、安奈に千歳ちゃんみたいな友達ができて本当に良かったって思ってるよ。こいつのこと、これからもよろしくな?」
「うん! 私こそ、よろしくね?」
「ああ」
懐っこい千歳ちゃんの笑顔は、とてもまぶしかった。こんな妹だったら、確かに欲しいな。安奈と違って、小さいことでいちいち怒らなさそうだし。
さて、爪の先が終わって、おやつタイムだ。別に手が使えるのに、香澄は俺に食べさせてもらいたがった。動物園のふれあいコーナーかよ、と思いながら、俺は香澄にクッキーを食べさせた。
「達矢くん、私もあーんして欲しいな」
上目遣いで千歳ちゃんが言ってきた。
「いいぞ。はい」
はむはむとクッキーを頬張る千歳ちゃん。顔立ちが幼いから、まだまだ中学生に見える。妹の世話もこんな感じなのだろうか。
「ねえ達矢、わたしは?」
安奈が聞いてきた。面倒だなぁと思いつつも、香澄と千歳ちゃんの手前、やらないわけにはいかない。
「はい、あーん」
「キャー! 二人ってば可愛い!」
香澄が黄色い声をあげた。
「俺、全然食べれてないんですけど……」
「じゃあわたしが食べさせてあげる。はい、あーん」
「もう! なんか尊い! 推せる!」
勝手にテンションを上げている香澄は置いといて、俺は安奈にクッキーを食べさせてもらった。それから、一時間ほど話して、俺たちは解散した。
家に帰り、夕食を家族ととり、風呂に入った俺は、小説を読むことにした。読書は、芹香と繋がれる唯一の手段だ。そんな不埒な目的から始めたことなので、読むのはやっぱり遅かった。俺は主人公が一体目のアンドロイドを仕留めたところまでを読み終えた。
文庫本を閉じ、放置していたスマホを見ると、ラインが来ていた。
『今日は楽しかったね! 付き合ってくれてありがとう!』
千歳ちゃんだった。自分で撮ったらしい、ネイルの写真も添付されていた。時間は一時間前。時刻は夜十時になろうとしていて、返信してもまだいい頃かと思い俺はラインを返した。
『ネイル、可愛くしてもらえて良かったな。俺も楽しかったよ』
返事はすぐに来た。
『香澄くんには本当に感謝だよ! 達矢くん、今何してたの?』
『小説読んでた』
『読書するんだ! そっか、図書委員だもんね! 私はあんまりしないかなぁ。オススメの本があったら教えてね!』
オススメと言われても、俺だってこの本を読むのに精一杯なのだ。もう打ちきってもいいと思い、それには返さないでおいた。
「よう、どうしたんだ? 二人して」
「あのね、千歳ちゃんもネイルして欲しいんだって」
「えへへ、そういうこと」
俺は香澄を振り返った。
「おっ、またまたお客さま? 安奈ちゃんのお友達だよね。ささっ、こっちに来なよー」
昨日のように、千歳ちゃんが一樹の席に座った。俺は自分の席に、安奈は俺の後ろの席に。
「私、松浜千歳っていいます」
「ボクは西山香澄。香澄でいいよ、千歳ちゃん。といっても今日は昨日のやつしか持ってきてないんだけど……」
「ううん、それでいいの。私、安奈ちゃんと同じネイルにしてほしい」
それなら話は早い。香澄はうきうきとネイル道具を取り出し始めた。三回目になるが、俺も見学することにした。千歳ちゃんが言った。
「何だかごめんね? 香澄くんとは初めましてなのに」
「いいってことよ。させてくれる人が多い方が、練習になるし」
もはやネイルサロンと化した一組の教室に、ハンドオイルの匂いが漂った。周りの女子たちも、香澄の方を気にしている。この調子だと、香澄の言う「お客さま」はこれからも現れそうだなと思いながら、彼らの様子を見守っていた。
「あれっ? けっこう形整えてるよね」
「うん。春休みに自分でしてた。でも、フレンチネイルとかは上手くできなくて」
「そっかぁ。じゃあこの香澄さんに任せなさい!」
頼もしい奴だ。二人っきりにさせても問題なさそうだし、と思い、俺は安奈と一緒に購買へお菓子を買いに行くことにした。
「爪まで一緒になったら、ますます姉妹感が増すな」
「だよねぇ。何だかわたし、嬉しくなっちゃった! 妹が居たら、あんな感じなのかなぁって思うよ」
俺も安奈も一人っ子だ。特に安奈は、きょうだいが欲しいと言って親を困らせていた時期があったらしい。俺はきょうだいなんて居ても鬱陶しいだけだろうし、とそんなことをせがむことは無かったが、確かに千歳ちゃんのような可愛い妹が居たら楽しいだろうな、なんて想像した。
クッキーを買った俺たちは、一組の教室に戻った。そう整える必要が無かったせいだろう、安奈のときよりも早く進んでいて、ピンクベージュのマニキュアを塗っているところだった。
「これがベースになりまーす」
「わあっ、これだけでも十分可愛いね?」
千歳ちゃんは嬉しそうにまばたきをした。妹、妹かぁ。俺は彼女に語りかけた。
「俺、安奈に千歳ちゃんみたいな友達ができて本当に良かったって思ってるよ。こいつのこと、これからもよろしくな?」
「うん! 私こそ、よろしくね?」
「ああ」
懐っこい千歳ちゃんの笑顔は、とてもまぶしかった。こんな妹だったら、確かに欲しいな。安奈と違って、小さいことでいちいち怒らなさそうだし。
さて、爪の先が終わって、おやつタイムだ。別に手が使えるのに、香澄は俺に食べさせてもらいたがった。動物園のふれあいコーナーかよ、と思いながら、俺は香澄にクッキーを食べさせた。
「達矢くん、私もあーんして欲しいな」
上目遣いで千歳ちゃんが言ってきた。
「いいぞ。はい」
はむはむとクッキーを頬張る千歳ちゃん。顔立ちが幼いから、まだまだ中学生に見える。妹の世話もこんな感じなのだろうか。
「ねえ達矢、わたしは?」
安奈が聞いてきた。面倒だなぁと思いつつも、香澄と千歳ちゃんの手前、やらないわけにはいかない。
「はい、あーん」
「キャー! 二人ってば可愛い!」
香澄が黄色い声をあげた。
「俺、全然食べれてないんですけど……」
「じゃあわたしが食べさせてあげる。はい、あーん」
「もう! なんか尊い! 推せる!」
勝手にテンションを上げている香澄は置いといて、俺は安奈にクッキーを食べさせてもらった。それから、一時間ほど話して、俺たちは解散した。
家に帰り、夕食を家族ととり、風呂に入った俺は、小説を読むことにした。読書は、芹香と繋がれる唯一の手段だ。そんな不埒な目的から始めたことなので、読むのはやっぱり遅かった。俺は主人公が一体目のアンドロイドを仕留めたところまでを読み終えた。
文庫本を閉じ、放置していたスマホを見ると、ラインが来ていた。
『今日は楽しかったね! 付き合ってくれてありがとう!』
千歳ちゃんだった。自分で撮ったらしい、ネイルの写真も添付されていた。時間は一時間前。時刻は夜十時になろうとしていて、返信してもまだいい頃かと思い俺はラインを返した。
『ネイル、可愛くしてもらえて良かったな。俺も楽しかったよ』
返事はすぐに来た。
『香澄くんには本当に感謝だよ! 達矢くん、今何してたの?』
『小説読んでた』
『読書するんだ! そっか、図書委員だもんね! 私はあんまりしないかなぁ。オススメの本があったら教えてね!』
オススメと言われても、俺だってこの本を読むのに精一杯なのだ。もう打ちきってもいいと思い、それには返さないでおいた。