偽りの恋人~俺と幼馴染は付き合っているフリをしている~

29 コンビニ

 芹香とファミレスに行き、映画の約束をした翌日。俺は早速、安奈にそのことを報告した。

「へえ、良かったね!」

 通学路で俺は、事の顛末を話していた。

「でもなー、誰とも付き合いたくないらしいからなー」
「でも、友達になって欲しいって言われたんでしょう? 一歩前進! だよ?」

 安奈は握りこぶしを作り、天に突き出した。俺もつられてそうした。

「よーし! 頑張るぞー!」
「その意気だー!」

 学校に着くと、下駄箱のところで千歳ちゃんに話しかけられた。

「おはよう! 安奈ちゃん、達矢くん」
「おはよう! 千歳ちゃんは今日も元気だな」
「えへへっ」

 それから、千歳ちゃんは小さな紙袋をカバンから取り出した。

「これ、借りてた本。と、ちょっとしたお礼」

 中を見てみると、文庫本と一緒に、個包装されたチョコレートが何個か入っていた。

「気ぃ遣わなくてもいいのに。で、どうだった?」
「ぶっちゃけ難しかった! 達矢くんって凄いね? こういうの読めるなんて」
「そうでもないよ。あっ、安奈、次読むか?」
「うん。とりあえず借りとくね」

 俺は紙袋から文庫本だけを取り出し、安奈に渡した。それから、流れで俺たち三人は二組の教室に向かった。

「あれっ? 達矢だ。おはよう!」

 先に来ていた優太が俺たちに声をかけた。

「おはよう、優太。今日も昼休み、こっち来るのか?」
「うーん、今日は我慢しとく。一日おきくらいにしとく」

 実は次の土曜日、一緒に映画に行くのだと知ったら、優太はどんな反応をするのだろうか? 可哀想だから、絶対に打ち明けないでおこうと俺は思った。
 そして、優太と少しだけ話をしてから、俺は一組の教室へ行った。

「おはよう達矢!」
「おはよう香澄。拓磨はまだか?」
「まだみたい。ねえねえ、拓磨が来る前に言っときたいんだけどさ」

 香澄は俺に耳打ちをした。

「今日の放課後、いきなりバイト先訪問しようよ」
「ええっ?」
「ゴールデンウィークはバイト詰めだったって言ってたし、もう慣れてるっしょ」

 にひひ、と悪い笑みを浮かべた香澄。結局、安奈も一緒に、拓磨のバイト先であるコンビニへ行くことになってしまった。
 放課後、拓磨を見送った後、俺と香澄と安奈は、二十分ほど教室で時間を潰してから、拓磨の家の最寄り駅に向かった。

「ここだー!」

 駅から五分ほど歩いたところで、香澄がとあるコンビニを指差した。

「他のお客さんもいなさそうだし、いいタイミングだね!」

 安奈も何だか楽しそうだ。俺たちはぞろぞろとコンビニに入った。

「いらっしゃいま……」

 一人でレジに立っていた拓磨は、俺たちの顔を見るなり固まってしまった。

「えへへ。来ちゃった」

 香澄がそう言うと、拓磨はため息をついてからメガネのふちに手をやった。

「邪魔すんなって言ったろ」
「ボクたちは普通にお買い物に来たの! 百六十六番ください!」
「明らかに未成年の方にはお売りできません!」

 そんな香澄のボケをいなした拓磨は、しっしっと手を振った。俺たちはアイスの棚に向かい、めいめい好きな物を取って拓磨に会計をしてもらった。

「またお越し下さい。って一応言っとくわ」
「ふふっ、拓磨くん、本当にまた来るね?」

 安奈が言った。

「達矢と安奈ちゃんなら歓迎」
「ちょっとー、ボクはー?」
「はい、買い物したならさっさと出る!」

 拓磨に追い出された俺たちは、コンビニのすぐわきにあった公園へ行った。香澄曰く、ここが拓磨との間の「いつもの公園」らしい。

「俺と安奈にも、いつもの公園があるぞ。ここみたいに遊具は無いけどな」
「へー、そうなんだ!」

 ベンチに座り、俺はソーダ味のアイスの棒をガリガリと食べ始めた。香澄はチョコレート味のソフトクリーム、安奈はカップに入ったバニラアイスだ。安奈が言った。

「なんだかカッコよかったよね、拓磨くん」
「でしょう? 何やっててもカッコいいんだよね、拓磨ってば」

 それから香澄は、こんな話をしてくれた。

「中学のときも、拓磨ってば告白されたこと何回かあるんだよ」
「そうなんだ!」

 安奈はキラキラと目を輝かせていた。

「でも、好きじゃない子とは付き合えないからって、全部断ってたの。勿体ないよねぇ」
「ああ、拓磨くんの気持ち分かるなぁ。わたしも、よく告白されてたけど、好きじゃない人と付き合うなんて無理だった」
「だって好きなのは達矢だもんね?」
「うん、そうだよ」

 あっさりと言いのけた安奈に、香澄はキャーと悲鳴をあげた。

「いつから達矢のことが好きだったの?」
「分かんない。もしかしたら、保育園の頃からだったのかも」

 おいおい、そういう設定でいくのかよ。保育園の頃なんて、泣かせてた覚えしか無いぞ。香澄は俺にも話を振ってきた。

「達矢はいつから?」
「中学のとき、安奈がモテはじめて、それから焦り出した感じ?」

 これは、何度か他の奴にも言ったことのある話だった。なので、続く香澄の追撃にも難なく答えることができた。アイスを食べ終わった俺たちは、それからしばらく話をして、日が傾く頃になってから解散した。
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