偽りの恋人~俺と幼馴染は付き合っているフリをしている~
03 委員決め
前の席の背が高い奴とは、すぐに打ち解けた。名前は宮塚拓磨。俺たちはあっさりと、下の名前で呼び合うようになった。
「ごめんな、達矢。俺が前だと邪魔だろ?」
「まーな。でも、じきに席替えもあるみたいだし、大丈夫だよ」
拓磨は身長が百八十センチ以上あるらしい。ひょろ長いわけではなく、体格もいいので、大きな壁のようだ。いかにも運動ができそうな出で立ちだが、黒いフレームのメガネをかけていて、知的な印象も受けた。
ホームルームが始まるまで、前後の席で俺と拓磨が話していると、ぴょこんと背の低い男子生徒が顔を出した。
「拓磨、おはよう」
「おはよう、香澄」
香澄と呼ばれた男子は、くりくりとした瞳をしていて、小動物のようだった。髪型は肩にギリギリつかない程度のショートボブだ。名前だけでなく、外見も女の子っぽいなと俺が思っていると、香澄が俺に話しかけてきた。
「山手くんだよね。ボク、西山香澄」
「達矢でいいよ」
「じゃあボクのことも香澄って呼んで! 拓磨とはね、中学が一緒なんだ」
それから、話すのは香澄が中心だぅた。拓磨と香澄は中学時代から勉強を一緒にするなど仲が良かったこと。香澄の趣味はネイルで、薄いピンク色に彩られた爪は自分で塗っているとのこと。
上手くやっていけそうだな、と俺は思った。何せ、拓磨も香澄も帰宅部の予定なのだとか。帰りに三人で寄り道なんてできるかもしれない。そういう、男同士の付き合いも俺は求めていた。
「あっ、先生来た。またね、拓磨、達矢」
ホームルームが始まってから、俺が見つめていたのはやはり呉川さんだった。彼女は真っ直ぐに黒板を見つめていて、生真面目そうな印象を俺は受けた。
次の休み時間、呉川さんに話しかけてみようか? でもどうやって?
中学時代は、安奈以外の女子とはつるまなかったから、女子生徒との距離の詰め方を俺は知らない。せめて、何か共通点があれば。そうだ、同じ帰宅部だから……だから、何だというのだろう。一緒に帰るにも、部活が始まるまでは安奈が邪魔だ。
「えー、それでは、委員決めをします。まずはどんな委員会があるかですが……」
いつの間にか話はそういうことになっていたようだ。まるで興味の無い俺は、どれにも手を挙げず、成り行きをただ見守っていた。学級委員、保健委員、美化委員。こんな面倒なもの、誰も手を挙げないだろうな、等と思っていたら、図書委員のところで動きがあった。
「あたし、やります」
呉川さんが声を発したのだ。
「放課後の当番も回ってきますが、大丈夫ですか?」
「はい、帰宅部なんで」
この機を逃すわけにはいかない!
俺も勢いよく手を挙げた。
「俺もやります!」
手だけのつもりが、立ち上がってしまった。がたりと俺の椅子が揺れた。しまった、勢いをつけすぎた。
「ありがとう、山手くん。じゃあ図書委員は決まりで」
呉川さんがちらりと俺の顔を見た。何の感情もこもっていなさそうな、冷たい目だった。それでも、彼女が俺のことを気に留めてくれた。その嬉しさと、立ち上がってしまった気恥ずかしさで、俺は消え入りたくなった。そして、すごすごと席に着いた。
拓磨が俺をちらりと振り返り、苦笑いをしていた。俺もそれに曖昧な笑みを返した。呉川さんが目当てだというのがバレただろうか? まだ知り合って間もないが、拓磨はそういうのに敏感そうだ。俺は残りの時間、言い訳を考えることにした。
「さっきの達矢、凄かったな。そんなに図書委員やりたかったの?」
休み時間になり、案の定拓磨にそう聞かれてしまった。
「うん、その、図書室の雰囲気が好きでさ。どうせ帰宅部だし、何かクラスのためにやれることがあったらいいなぁって思ってたし」
「そっか。達矢は偉いんだな」
「そんなことないよ」
今度は香澄が俺たちの席に来て、ブーブー文句を垂れていた。
「学級委員になっちゃったよー! 最終的にはくじ引きとか酷くない?」
そう、最後まで決まらなかった学級委員は、香澄になったのである。本人はとことん不服そうだが、彼の容姿は人を惹き付ける魅力がある。クラスの代表である学級委員はぴったりではないかと俺は思っていた。
「まあまあ香澄、何かあったらオレも仕事手伝うから」
「拓磨ぁ、マジで頼むよ? ボク、ポンコツだからさ!」
彼らのやり取りを見守りながら、そっと呉川さんの動向を探ったのだが、トイレにでも行ってしまったのか、席には居なかった。せっかく委員が決まったところだし、話しかけるきっかけができたと思ったのに。
「なあ、達矢。今日一緒に帰るか? 三人で」
拓磨がそう言ってくれたが、俺は断った。
「すまん、ちょっと先約があって」
「拓磨ったら、邪魔しちゃダメだよ! 達矢、二組の子と帰るんでしょう? 昨日、見てたよ」
俺はポリポリと頬をかいた。
「そう。彼女と帰るの」
「やっぱり二人って付き合ってたんだ! ねえねえ、いつから!?」
それから、俺は香澄の激しい質問攻めにあった。呉川さんが席に戻ってきたのが見えたが、とても場を離れられそうになく、断念した。
「ごめんな、達矢。俺が前だと邪魔だろ?」
「まーな。でも、じきに席替えもあるみたいだし、大丈夫だよ」
拓磨は身長が百八十センチ以上あるらしい。ひょろ長いわけではなく、体格もいいので、大きな壁のようだ。いかにも運動ができそうな出で立ちだが、黒いフレームのメガネをかけていて、知的な印象も受けた。
ホームルームが始まるまで、前後の席で俺と拓磨が話していると、ぴょこんと背の低い男子生徒が顔を出した。
「拓磨、おはよう」
「おはよう、香澄」
香澄と呼ばれた男子は、くりくりとした瞳をしていて、小動物のようだった。髪型は肩にギリギリつかない程度のショートボブだ。名前だけでなく、外見も女の子っぽいなと俺が思っていると、香澄が俺に話しかけてきた。
「山手くんだよね。ボク、西山香澄」
「達矢でいいよ」
「じゃあボクのことも香澄って呼んで! 拓磨とはね、中学が一緒なんだ」
それから、話すのは香澄が中心だぅた。拓磨と香澄は中学時代から勉強を一緒にするなど仲が良かったこと。香澄の趣味はネイルで、薄いピンク色に彩られた爪は自分で塗っているとのこと。
上手くやっていけそうだな、と俺は思った。何せ、拓磨も香澄も帰宅部の予定なのだとか。帰りに三人で寄り道なんてできるかもしれない。そういう、男同士の付き合いも俺は求めていた。
「あっ、先生来た。またね、拓磨、達矢」
ホームルームが始まってから、俺が見つめていたのはやはり呉川さんだった。彼女は真っ直ぐに黒板を見つめていて、生真面目そうな印象を俺は受けた。
次の休み時間、呉川さんに話しかけてみようか? でもどうやって?
中学時代は、安奈以外の女子とはつるまなかったから、女子生徒との距離の詰め方を俺は知らない。せめて、何か共通点があれば。そうだ、同じ帰宅部だから……だから、何だというのだろう。一緒に帰るにも、部活が始まるまでは安奈が邪魔だ。
「えー、それでは、委員決めをします。まずはどんな委員会があるかですが……」
いつの間にか話はそういうことになっていたようだ。まるで興味の無い俺は、どれにも手を挙げず、成り行きをただ見守っていた。学級委員、保健委員、美化委員。こんな面倒なもの、誰も手を挙げないだろうな、等と思っていたら、図書委員のところで動きがあった。
「あたし、やります」
呉川さんが声を発したのだ。
「放課後の当番も回ってきますが、大丈夫ですか?」
「はい、帰宅部なんで」
この機を逃すわけにはいかない!
俺も勢いよく手を挙げた。
「俺もやります!」
手だけのつもりが、立ち上がってしまった。がたりと俺の椅子が揺れた。しまった、勢いをつけすぎた。
「ありがとう、山手くん。じゃあ図書委員は決まりで」
呉川さんがちらりと俺の顔を見た。何の感情もこもっていなさそうな、冷たい目だった。それでも、彼女が俺のことを気に留めてくれた。その嬉しさと、立ち上がってしまった気恥ずかしさで、俺は消え入りたくなった。そして、すごすごと席に着いた。
拓磨が俺をちらりと振り返り、苦笑いをしていた。俺もそれに曖昧な笑みを返した。呉川さんが目当てだというのがバレただろうか? まだ知り合って間もないが、拓磨はそういうのに敏感そうだ。俺は残りの時間、言い訳を考えることにした。
「さっきの達矢、凄かったな。そんなに図書委員やりたかったの?」
休み時間になり、案の定拓磨にそう聞かれてしまった。
「うん、その、図書室の雰囲気が好きでさ。どうせ帰宅部だし、何かクラスのためにやれることがあったらいいなぁって思ってたし」
「そっか。達矢は偉いんだな」
「そんなことないよ」
今度は香澄が俺たちの席に来て、ブーブー文句を垂れていた。
「学級委員になっちゃったよー! 最終的にはくじ引きとか酷くない?」
そう、最後まで決まらなかった学級委員は、香澄になったのである。本人はとことん不服そうだが、彼の容姿は人を惹き付ける魅力がある。クラスの代表である学級委員はぴったりではないかと俺は思っていた。
「まあまあ香澄、何かあったらオレも仕事手伝うから」
「拓磨ぁ、マジで頼むよ? ボク、ポンコツだからさ!」
彼らのやり取りを見守りながら、そっと呉川さんの動向を探ったのだが、トイレにでも行ってしまったのか、席には居なかった。せっかく委員が決まったところだし、話しかけるきっかけができたと思ったのに。
「なあ、達矢。今日一緒に帰るか? 三人で」
拓磨がそう言ってくれたが、俺は断った。
「すまん、ちょっと先約があって」
「拓磨ったら、邪魔しちゃダメだよ! 達矢、二組の子と帰るんでしょう? 昨日、見てたよ」
俺はポリポリと頬をかいた。
「そう。彼女と帰るの」
「やっぱり二人って付き合ってたんだ! ねえねえ、いつから!?」
それから、俺は香澄の激しい質問攻めにあった。呉川さんが席に戻ってきたのが見えたが、とても場を離れられそうになく、断念した。