偽りの恋人~俺と幼馴染は付き合っているフリをしている~
30 二回目の映画
部屋中を服で散らかしながら、俺は悩んでいた。今日はいよいよ、芹香とのデート、いやまあ、映画を観に行く日だ。芹香はどんな服装が好みなのだろう。清潔感が大事か。俺は真っ白なTシャツにデニムを合わせて、くれぐれも遅刻しないように家を出た。
待ち合わせ場所は駅前だ。二十分も早く着いた。それなのに、芹香の方が先に来ていた。
「あっ、達矢。早いね」
芹香も無地の白いTシャツを着ていた。下は黒いショートパンツに薄手の黒のタイツだ。髪はいつもどおり長くおろしていた。
「芹香こそ、早かったな」
「人を待たせるのが苦手なの。っていうか、何だか服装かぶったね?」
俺たちはくすくすと笑った。ペアルックみたいで気恥ずかしい。席の予約なら、俺がしていた。発券機でチケットを受け取り、芹香に渡して、俺は聞いた。
「ポップコーンとか買う?」
「いや、いい。映画に集中したいから。飲み物だけ買おう」
俺は二人分のアイスコーヒーを買った。開始までは、まだまだ時間があった。俺は芹香と、映画のチラシを見たり、物販を見に行ったりして過ごした。こういう時間も、俺にとっては幸せだった。
アナウンスが鳴り、俺たちは中に入った。この前、安奈と来たときとはまるで違う緊張感があった。好きな子と長時間、隣に座っていられるのだ。芹香はとても静かで、映画館そのものの空気感を味わっているような雰囲気があった。
映画が始まった。俺は今日までに原作を全て読みきっていた。原作には無いストーリー運びや登場人物の設定に気付いて、二回目の鑑賞はまた違った感慨を受けた。
「良かったね」
エンドロールが終わり、場内が明るくなってから、芹香が言った。
「うん、良かっただろ?」
「原作読んでたから、先の展開は知ってたけど、それでもドキドキしちゃった」
芹香は胸に手をあて、目を閉じた。うんうん、分かる分かる。話の続きはご飯を食べながらしよう、と俺はパスタ屋に芹香を誘った。
「はあ、早く大人になりたいなぁ」
注文の品を待っている間、芹香は言った。
「どうして?」
「早く、ああいうお酒の場に行ってみたい。まあ、うちの母親が水商売やってるから、店自体には行ったことあるんだけどね? お客として、お酒飲みたい」
セットドリンクのアイスコーヒーが二つ置かれた。
「俺も、芹香とお酒飲みたいな」
「いいね。二十歳になったら、絶対行こう」
つい俺は、二十歳になった芹香を想像してしまった。さっきの映画のヒロインみたいに、赤ワインの似合う女になっているのだろうか。それはそれで楽しみだ。今度はサラダが届いた。
「っていうか、二十歳になっても友達でいること前提?」
嬉しくなって俺は聞いた。
「もちろん。男友達っていいな。サッパリしててさ。女同士のねちっこい感じが無い」
「ははっ、そっか」
とても付き合いたいだなんて言える雰囲気、というか段階では無いな、と俺は思った。でも、優太よりもリードできたのは事実だ。今、芹香を独占できているのはこの俺だ。
サラダを食べながら、映画の感想を言い合っていると、俺のナポリタンと芹香のボロネーゼがきた。彼女も安奈と同じく、食べ方が綺麗だ。母親には厳しくしつけられたのだろうか。
「この後どうする?」
俺が聞くと、芹香はぽかんとした顔をした。
「えっ、帰るんじゃないの?」
嫌だ。俺はもう少し、芹香を引き留めていたい。
「どっか寄って行こうよ。ゲーセンとか行かない? 安奈はああいうの苦手でいつも行けないからさ」
安奈の名前を出してみた。すると芹香はこう言った。
「あたしは別に、苦手じゃないというか……むしろ好きだけど」
「じゃあ行こう!」
パスタを食べ終わった俺たちは、ゲームセンターへ向かった。芹香の希望で、ゾンビを撃ちまくるガンシューティングをすることになった。筐体の中は狭く、肩が触れ合ってしまうのだが、芹香はまるで気にしていないようだった。
「おらっ! いけいけ!」
芹香の腕は凄かった。俺はこの手のゲームは数えるほどしかやったことが無かったので、スコアの差は歴然だった。俺が早々に脱落した後も、彼女はゲームを続け、なんとボスまで倒してしまった。
「芹香、凄いな……」
「小学生のときから、ゲーセンはしょっちゅう行ってたからね。クレーンゲームとかは不得意だけど」
「あっ、それなら俺は得意だぞ?」
俺たちはクレーンゲームのコーナーを見て回った。
「あっ、ニャンティ」
芹香の目は、猫のキャラクターのぬいぐるみに釘付けになっていた。よし、今度は俺の腕の見せ所だ。
「待ってろよ、すぐ取ってやるからなー!」
俺は百円玉を一枚入れた。この角度なら一発でいける。よし、いい感じに……。
「あれっ?」
「アーム、弱いねぇ」
俺はもう一枚百円玉を入れた。二回でなら何とかなるだろう。しかし、またもやアームは空を切った。
「どうにかして取ってみせる!」
今度は五百円玉を入れた。これで六回できる。何度か動かした後、ようやくニャンティが落ちてくれた。それを芹香に渡すと、この日一番の笑顔を彼女は見せてくれた。ああ、幸せな一日だ。
待ち合わせ場所は駅前だ。二十分も早く着いた。それなのに、芹香の方が先に来ていた。
「あっ、達矢。早いね」
芹香も無地の白いTシャツを着ていた。下は黒いショートパンツに薄手の黒のタイツだ。髪はいつもどおり長くおろしていた。
「芹香こそ、早かったな」
「人を待たせるのが苦手なの。っていうか、何だか服装かぶったね?」
俺たちはくすくすと笑った。ペアルックみたいで気恥ずかしい。席の予約なら、俺がしていた。発券機でチケットを受け取り、芹香に渡して、俺は聞いた。
「ポップコーンとか買う?」
「いや、いい。映画に集中したいから。飲み物だけ買おう」
俺は二人分のアイスコーヒーを買った。開始までは、まだまだ時間があった。俺は芹香と、映画のチラシを見たり、物販を見に行ったりして過ごした。こういう時間も、俺にとっては幸せだった。
アナウンスが鳴り、俺たちは中に入った。この前、安奈と来たときとはまるで違う緊張感があった。好きな子と長時間、隣に座っていられるのだ。芹香はとても静かで、映画館そのものの空気感を味わっているような雰囲気があった。
映画が始まった。俺は今日までに原作を全て読みきっていた。原作には無いストーリー運びや登場人物の設定に気付いて、二回目の鑑賞はまた違った感慨を受けた。
「良かったね」
エンドロールが終わり、場内が明るくなってから、芹香が言った。
「うん、良かっただろ?」
「原作読んでたから、先の展開は知ってたけど、それでもドキドキしちゃった」
芹香は胸に手をあて、目を閉じた。うんうん、分かる分かる。話の続きはご飯を食べながらしよう、と俺はパスタ屋に芹香を誘った。
「はあ、早く大人になりたいなぁ」
注文の品を待っている間、芹香は言った。
「どうして?」
「早く、ああいうお酒の場に行ってみたい。まあ、うちの母親が水商売やってるから、店自体には行ったことあるんだけどね? お客として、お酒飲みたい」
セットドリンクのアイスコーヒーが二つ置かれた。
「俺も、芹香とお酒飲みたいな」
「いいね。二十歳になったら、絶対行こう」
つい俺は、二十歳になった芹香を想像してしまった。さっきの映画のヒロインみたいに、赤ワインの似合う女になっているのだろうか。それはそれで楽しみだ。今度はサラダが届いた。
「っていうか、二十歳になっても友達でいること前提?」
嬉しくなって俺は聞いた。
「もちろん。男友達っていいな。サッパリしててさ。女同士のねちっこい感じが無い」
「ははっ、そっか」
とても付き合いたいだなんて言える雰囲気、というか段階では無いな、と俺は思った。でも、優太よりもリードできたのは事実だ。今、芹香を独占できているのはこの俺だ。
サラダを食べながら、映画の感想を言い合っていると、俺のナポリタンと芹香のボロネーゼがきた。彼女も安奈と同じく、食べ方が綺麗だ。母親には厳しくしつけられたのだろうか。
「この後どうする?」
俺が聞くと、芹香はぽかんとした顔をした。
「えっ、帰るんじゃないの?」
嫌だ。俺はもう少し、芹香を引き留めていたい。
「どっか寄って行こうよ。ゲーセンとか行かない? 安奈はああいうの苦手でいつも行けないからさ」
安奈の名前を出してみた。すると芹香はこう言った。
「あたしは別に、苦手じゃないというか……むしろ好きだけど」
「じゃあ行こう!」
パスタを食べ終わった俺たちは、ゲームセンターへ向かった。芹香の希望で、ゾンビを撃ちまくるガンシューティングをすることになった。筐体の中は狭く、肩が触れ合ってしまうのだが、芹香はまるで気にしていないようだった。
「おらっ! いけいけ!」
芹香の腕は凄かった。俺はこの手のゲームは数えるほどしかやったことが無かったので、スコアの差は歴然だった。俺が早々に脱落した後も、彼女はゲームを続け、なんとボスまで倒してしまった。
「芹香、凄いな……」
「小学生のときから、ゲーセンはしょっちゅう行ってたからね。クレーンゲームとかは不得意だけど」
「あっ、それなら俺は得意だぞ?」
俺たちはクレーンゲームのコーナーを見て回った。
「あっ、ニャンティ」
芹香の目は、猫のキャラクターのぬいぐるみに釘付けになっていた。よし、今度は俺の腕の見せ所だ。
「待ってろよ、すぐ取ってやるからなー!」
俺は百円玉を一枚入れた。この角度なら一発でいける。よし、いい感じに……。
「あれっ?」
「アーム、弱いねぇ」
俺はもう一枚百円玉を入れた。二回でなら何とかなるだろう。しかし、またもやアームは空を切った。
「どうにかして取ってみせる!」
今度は五百円玉を入れた。これで六回できる。何度か動かした後、ようやくニャンティが落ちてくれた。それを芹香に渡すと、この日一番の笑顔を彼女は見せてくれた。ああ、幸せな一日だ。