魔女のお菓子
すぐに起きられると思ったのだが、気がつけば爆睡。まだ半分しか覚醒してなかった頭も、部屋を満たす甘酸っぱく香ばしい香気に誘われて……。慌てて身体を起こそうとしたものの、それはあっさり制しされてしまう。



「……シャロン?!」

「よく寝てたから」

「いやいや……すぐ起こせよな」

「欲に勝てるほど――オレは、よくできた人間じゃないよ」



シャロンのどこか物憂げな表情。しかしそれはすぐ鳴りを潜めて、小皿に取り分けてあるチェリーパイを俺に差し出す。



「ありがとう」

「それより食べて」

「おう」



シャロンに促され口に運ぶ。その瞬間、口いっぱいに赤い実が優しく広がっていく。甘酸っぱさがほどよく調整されていて……バラジャムだ。前チェリーパイが異世界だって騒いでたら、もう一味足したからと微笑んでたシャロンを思い出す。その時に教えてくれたのだ、べつに減るわけでもないからと。また新しく構築し直せばいいからって。



「その顔好き」

「食べてるだけだぞ?」

「それだけでも。メノウは特別」



…………あまい。あますぎる。言葉も、その笑顔も。



糖分の過剰摂取になりそうだ。



チェリーパイの味が、後半あまあまになってしまったのは内緒にしておこうと思う。



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