春待月の一夜のこと
裸の上半身がまた距離を詰めてくる。でも今度は真帆の後ろは壁なので、先ほどのように下がって回避することが出来ない。
そこで止まれと咄嗟に腕を突き出すが、それでも田辺は止まらなくて、鎖骨の辺りに指先が触れる。


「ちょ!?それ以上近寄ってこないで!」

「だって近付かないと再現できないから」

「い、いい!再現はしなくていい!」

「なるほど、口で説明して欲しいと。昨日の夜の田中さんがどんな風で、俺がどうやってそれに応えたのかをこと細かーく」


なんだかとっても嫌な予感がする言い方だ。
それでもようやく進行は止まったが、真帆の指先は田辺の鎖骨に触れたままという謎の状態。腕を引きたいが、引いたらまた進行が始まりそうで動くに動けない。


「そうだね、じゃあ口で説明すると、田中さんはね意外に大胆だったよ。部屋に入るなり服をぬ――」

「どわぁああああー!!」

「ドア?」

「違う!」


咄嗟に遮ってしまったが、今完全に“服をぬ”まで言った。そこで“ぬ”ときたら続く言葉はもう“ぐ”しかないだろう。脱いだのか!?自分から服を脱いだのか!?
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