春待月の一夜のこと
それはつまりそういうことなのか、それともただ単に隣に人がいて温かかったと言いたいだけなのか、岡嶋は買ったばかりのホットの缶コーヒーを飲みながら考える。


「でも、パンツ一枚になったのは不可抗力なんですよ。なにも、初めから下心満載で脱いだわけじゃありません」


ということはつまり、本当は何もなかったのか、全部嘘だったということなのか。


「介抱してる途中で、そりゃあもう盛大にやられたんですよ。胃の中の物全部出たんじゃないかってくらい。ていうか初めは、こいつわざとか?って思いましたよ。だって、うぐって言ったかと思ったら突然俺の方向くから」

「……そりゃあ災難だったな。けど、自分の家にいたなら着替えくらいあっただろ」


別に、そのままパンイチでいる理由はない。ということはつまり、これは盛大にやられた腹いせに嘘をついたとみるのが正解かと岡嶋が納得しかけたところで


「まあそれはそうなんですけど、着替えに行こうとしたら泣きながら縋りつかれて、“行かないで”とか、“好きなの”とか言うから。もしかしてこれが、据え膳食わぬはなんとやらなのかなって」
< 110 / 409 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop