春待月の一夜のこと
せっかく納得しかけたのに、田辺のその言葉にまた正解がわからなくなって、岡嶋は思わず「ん?」と首を傾げる。


「田中さんが言うように、確かに同窓会で会うまで存在を忘れてましたよ。当時はたぶん、まともに会話したことなかったし。もしかしたら、挨拶すらしたことなかったかもってくらいで。会ったところでギリギリ名前が思い出せるくらいの感じだったんですけど、……あの時、田中さんには俺が誰に見えてたんだろうって考えたら、その人と何があったのかとか、高校卒業したあとどうしていたのかとか、そもそも田中さんってどんな人なんだって、知りたい欲が出てきてしまって」


なるほどな、と岡嶋は頷いてみせる。
そこまでは、何も問題がない。かつてのクラスメイトのことを知りたいと思うのは悪いことではないし、そうやってお互いのことを知っていくうちに、真っ当に恋愛が始まりそうな展開でもある。
ただ問題は、そこに至るより先に一線を越えたのかどうか。
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