春待月の一夜のこと
「……まだ返事はしてなかったはずだと思うんだが?」

「返事は迅速に、社会人の基本でしょ」


迅速も何も、メッセージを開いて目を通した瞬間にインターホンが鳴った場合はどうしたらいいというのか。


「いつも言ってるだろ、連絡はもっと早く寄越せって。予定があったりして不在だったらどうするつもりだったんだ」


「大丈夫、ちゃんと電気ついてるの確認してからメッセ送ったから」


それはつまり家の前まで来てからメッセージを送ったということだから、何も大丈夫ではないし、やはり“返事は迅速に”も何もない。


「親に連絡は?」

「したしたー。おじゃましまーす」


呆れながらも、追い返すわけにもこのまま外に立たせておくわけにもいかないので、岡嶋はドアを大きく開けて中へと入れてやる。
岡嶋の幼馴染みにあたる島田 美沙(しまだ みさ)は、よくこうしてほぼアポなし訪問をしかけてくる。
そのため岡嶋の部屋は、もうほぼ島田の第二の家と化していた。


「あーあったかい」


部屋に入るなり暖房機の前に直行し、温風を全身に浴びる島田に、岡嶋はため息を一つ。
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