春待月の一夜のこと
「今日は一体なんなんだ」


この問いは、今日は何をしに来たんだという意味ではない。何をしに来たかなんて、そんなのいつものことなので、訊かずともわかっている。
この問いの意味は、こんな時間まで今日は何をしていたのかという意味だ。
時計を見れば、とっくに日付が変わっている。


「んー、今日はね、大学の友達と飲み会」

「駅前か?」

「そー」

「まさかとは思うが、駅から歩いて来たんじゃないだろうな」

「ちゃんとタクシー使いましたー。でなきゃ雅功くんうるさいんだもん」

「当たり前だろうが」


最寄りの駅から岡嶋が住んでいるマンションまでは、充分徒歩圏内ではあるけれど、かと言って夜中に女性が一人で歩いていい距離ではない。というか夜中の一人歩きなんて、距離の問題ではない。
それを島田は、一度歩いて来たことがあったのだ。

もちろん時間帯は夜中、日付がとっくに変わっていて、出迎えた岡嶋はまず鬼の形相で島田を叱り飛ばした。
それ以来、遅くなる時はタクシーを使っていると言うが、連絡が来るのはいつも家の前に着いてからなので、本当にタクシーで来ているのかは定かではない。
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