春待月の一夜のこと
まあ、なぜ自分がベッドで寝ているのかを覚えていない以上、絶対にそれはないと言い切れないのだけれど。それがまた怖い。
島田が目を開けたままぼうっとしているうちに、岡嶋はそうっとベッドから片足を出す。
さながら熊と対峙した時のように、島田から目は離さずに、そしてゆっくりと体を後ろへ。ベッドから出した片足が床に触れたところで


「……ああ、そうか」


島田がぼそりと呟いた。
その呟きに、岡嶋の体がびくっと揺れる。

これはもうダッシュで距離を取った方がいいのか、それとも誠心誠意謝り倒した方がいいのか。いやでも何があったのか覚えていない状態で謝っても誠意にかけるのか。
考え過ぎて頭の中がぐるぐるして、なんだかもう訳がわからなくなって、とりあえずまずは“おはよう”から始めればいいのか!?なんて混乱する岡嶋を、島田はぱっちりと開いた目で見つめて


「もちろん、責任取ってくれるんだよね?雅功くん」


窓から差し込む朝日を受けて、眩しいくらいの笑顔でそう言った。
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