春待月の一夜のこと

8

「よし、朝飯だ!うん、そうだまずは朝飯だ。何をおいてもまずはそれだな。そうだ、そうだ」


八割方現実逃避を含んだ宣言と共に、岡嶋はすっくと立ちあがる。突然の大声での宣言と動きに島田が驚いたように目を見開いていたけれど、気にせず岡嶋は歩き出す。
何もないところで転びそうになったり、早まった体が前に出てしまったことで閉まっているドアにぶち当たったりしながら、ふらふらと寝室を出ると、まずは洗面所に向かう。

あえてお湯ではなく冷水で顔を洗い、暴れる心臓を静めて火照った顔を冷やしたところで、次はキッチンへ。宣言通りに朝食を作る。
岡嶋はどちらかというと朝はご飯派だが、島田がパン派なので、用意したのは島田が泊りに来た時用に常備している食パン。そこに無心になってマーガリンを塗る。
続いて取り出したのはフライパンで、さて、冷蔵庫から出して来たこの卵をどうしようかと迷っていると


「オムレツがいい。チーズオムレツ」


島田が通り過ぎざまにリクエストしていく。
どこに行くのかなんて訊かずとも、しばらくして聞こえて来た水の流れる音で、洗面所にいることがわかる。
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